限局性学習症(SLD)とは?読み・書き・算数の困難と二次障害を防ぐために

「読めてはいるけれど、音読にとても時間がかかる」
「何度練習しても漢字を覚えにくい」
「話せば説明できるのに、文章を書くことが極端に苦手」

このような様子が続くと、「練習が足りないのでは」「もっと集中すればできるのでは」と考えてしまうことがあります。しかし、読む・書く・算数など、特定の学習領域に続く困難の背景には、限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)が関係している場合があります。
この記事では、SLDの基礎知識と年齢ごとの現れ方、評価の考え方、そして特に重要な二次障害の予防について解説します。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

この記事で分かること

・限局性学習症(SLD)とは何か
・読む・書く・算数の困難がどのように現れるか
・発達性ディスレクシアと音韻処理の関係
・SLDの評価・診断で確認すること
・二次的な不安や不登校を防ぐために大切なこと

限局性学習症(SLD)とは

限局性学習症は、読む・書く・算数など、学習に必要な特定の技能の習得や使用に持続的な困難がみられる神経発達症です。適切な教育や支援を受けていても、同年代と比べて習得に多くの時間と負担を要し、学校生活や日常生活に支障が生じます。全般的な知的発達の遅れ、視力や聴力の問題、学習機会の不足だけでは説明できないことも特徴です。以前から「学習障害」や「LD」という言葉が使われていますが、医学的には「限局性学習症」または「限局性学習障害」と呼ばれます。

SLDの困難は、大きく次の3つに分けられます。
 ・読むこと
 ・書くこと
 ・算数・計算
これらは一つだけみられることも、複数が重なってみられることもあります。なかでも最も多いのは、読むことの困難です。DSM-5-TRでは、学齢期の子どもにおけるSLDの有病率は、言語や文化の違いを含めて5~15%とされています。また、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、発達性協調運動症(DCD)などを併せ持つこともあります。

SLDでみられる3つの学習上の困難

読むことの困難

読むことに困難がある子どもは、文字がまったく読めないとは限りません。むしろ「読めるけれど極端に遅い」「読み間違いが多い」「一文字ずつ区切って読み、滑らかに読めない」という形で現れます。例えば、次のような様子がみられます。

  • 文字や単語の読み間違いが多い
  • 一文字ずつ拾うように読んだり、単語や文節の途中で不自然に区切ったりする
  • 行や文字を読み飛ばす
  • 長い文章を読むとひどく疲れる

読字に持続的な困難がみられる状態は、発達性ディスレクシアとも呼ばれます。
口頭で説明されれば理解できる内容でも、教科書や文章題では力を発揮できない場合があります。読むことの困難は、書字の困難を伴うことが少なくなく、国語だけでなく、文章題や教科書を使う多くの教科に影響します。

書くことの困難

書くことの困難は、単に「字が汚い」ということではありません。

  • 板書を書き写すのに時間がかかる
  • 漢字をなかなか覚えられない
  • 送り仮名や小さい「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」を間違える
  • 話せば説明できるのに文章としてまとめられない

文字の形が大きく崩れる場合には、手先の運動や注意の問題が影響していることもあります。字の見た目だけで判断せず、文字を思い出す、形にする、文章を組み立てるという過程のどこに困難があるのかを考えることが大切です。

算数・計算の困難

算数では、次のような困難がみられることがあります。

  • 数の大きさや順序を理解しにくい
  • 繰り上がりや繰り下がりの手順が定着しない
  • 数の関係を考えたり、計算方法を選んだりすることが難しい
  • 文章題で何を計算すればよいか分からない

文章題が苦手な場合には、算数そのものではなく、問題文を読むことや言葉の意味を理解することが影響している場合もあります。

発達性ディスレクシアと「音韻処理」の困難

SLDのうち最も多い発達性ディスレクシアでは、音韻処理の困難が重要な背景の一つと考えられています。音韻処理とは、言葉を音のまとまりとして捉え、それを分けたり、つなげたり、文字と対応させたりする力です。日本語では、ひらがな一文字に近い「拍(モーラ)」という音の単位を意識する力が、読みの習得に関係します。つまり、発達性ディスレクシアの子どもは、聴いた言葉の音のまとまりを認識し、文字と結びつけることに大きな負担がかかります。これは、「勉強していないから」「努力していないから」起こるのではありません。

読字に関する脳機能研究では、文字と音を対応させる過程や、見慣れた単語を素早く認識する過程に、左半球の複数の領域が関わることが示されています。読み始めの段階では、一文字ずつ文字と音を結びつけます。読みが習熟すると、見慣れた単語をまとまりとして、より速く認識できるようになります。こうした読みの発達を踏まえた具体的な2段階指導は、後編で説明します。

会話ができても、教科書を理解できるとは限りません

日常会話が流暢であることと、学校で使われる言葉を理解できることは同じではありません。授業や教科書では、「比較する」「予想する」「寸でのところで」など、日常会話ではあまり使わない抽象的な言葉や書き言葉が増えていきます。会話では理解できても、文字を読む負担や書き言葉の語彙の少なさによって、教科書の意味を十分に理解できないことがあります。会話ができるから、学習も問題なくできるとは限りません。「話せるのだから読めるはず」と考えず、学習に必要な言葉の理解を分けて支えることが大切です。
ただし、抽象的な言葉の理解の難しさが、SLDのすべての子どもにみられるわけではありません。読むことへの負担によって書き言葉の語彙を学ぶ機会が減っている場合や、言語発達の課題を併せ持っている場合もあります。そのため、日常会話の力、耳で聞いたときの理解、文字で読んだときの理解を分けて考えることが大切です。

年齢によって現れ方は変わります

就学前

就学前には、文字への関心が乏しい、絵本を避ける、言葉遊びや音の区切りを捉えることが苦手といった傾向がみられることがあります。ただし、これだけでSLDと判断することはできません。就学後の学習経過を丁寧に確認する必要があります。

小学校低学年

小学校低学年では、ひらがなやカタカナの習得、音読、書き写し、足し算や引き算などで困難が目立ち始めます。「まだ低学年だから」と長く様子を見ているうちに、本人が周囲との差を意識し、学習への苦手意識を強めてしまうことがあります。

小学校中学年以降

困難が比較的軽い場合には、文章が長くなり、漢字や英単語が増える中学年以降に気づかれることがあります。板書に時間がかかって先生の説明を聞けない、長い文章を読むだけで疲れる、テストを時間内に終えられないなど、国語以外の教科にも影響が広がります。

診断は一つの検査だけでは決まりません

SLDは、学校の成績や一つの検査結果だけで診断するものではありません。評価では、次のような情報を総合的に判断します。

  • これまでの発達経過や既往歴
  • 身体所見
  • 家庭や学校で困っていること
  • 全般的な知的能力
  • 読み書きや算数の到達状況
  • ADHDやASDなどの併存

診断では、学習上の困難が少なくとも6か月続き、適切な指導や支援を受けても改善しにくく、学校生活などに明らかな支障があることを確認します。必要に応じて、実際に文字や文章を読み上げたときの正確性や流暢性などを評価する検査も行います。ただし、一つの検査結果だけで診断を決めるものではありません。


診断名をつけることだけが医療機関への相談目的ではありません。子どもがどこでつまずき、どのような方法なら学びやすいのかを整理し、必要な支援につなげることが重要です。一方で、以前はできていたことが急にできなくなった、性格や行動が急に変化した、けいれんやふらつきなどを伴う場合には、SLD以外の病気を確認する必要があります。

大切なのは、二次障害を防ぐこと

ここでいう二次障害とは、SLDそのものの症状ではなく、学習上の失敗体験、繰り返される叱責、周囲との比較などが重なることで、後から生じる心や行動の問題を指します。SLDに気づかれないまま、「努力が足りない」「真面目に取り組んでいない」と叱られ続けると、子どもは自信を失います。その結果、次のような二次障害につながることがあります。

  • 自己肯定感や自尊感情の低下
  • 学習への強い不安
  • 気分の落ち込み
  • かんしゃくや反抗的な行動
  • 不登校

宿題を始めると泣く、学校の前になると腹痛や頭痛を訴える、「どうせできない」と話す、教科書やノートを隠すといった変化は、すでに大きなストレスを抱えているサインかもしれません。このようなときに、さらに学習量を増やすだけでは状況が悪化します。まず本人の気持ちを聞き、家庭と学校で負担を見直し、必要に応じて医療機関や発達支援機関へ相談してください。

重要なのは、苦手なことだけで子どもを評価しないことです。口頭での理解、発想力、運動、芸術、工作、人との関わりなど、文字や計算だけでは測れない力があります。得意な方法を活用し、成功体験を積める環境を整えることが、学習と心の両方を支えます。

まとめ

限局性学習症(SLD)は、読む・書く・算数など、特定の学習領域に持続的な困難がみられる神経発達症です。本人の努力不足や、保護者の教え方が原因ではありません。なかでも読字障害では、音のまとまりを扱う音韻処理に負担があり、文字と音を結びつけたり、単語をまとまりとして素早く認識したりすることが難しくなります。大切なのは、失敗体験によって自尊感情が低下する前に、本人に合った学び方へつなげることです。

実際の支援については「限局性学習症(SLD)の支援|学校・家庭での工夫と読字障害への2段階指導」で解説しています。

参考文献

American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association; 2022: 75-83.

加賀佳美, 稲垣真澄. 小児内科. 2019; 51: 1917-1920.

齋藤貴志, 加賀佳美. 小児科臨床. 2019; 72: 1313-1316.

特異的発達障害の臨床診断と治療指針作成に関する研究チーム編. 特異的発達障害 診断・治療のための実践ガイドライン. 診断と治療社; 2010.

小枝達也, 関あゆみ. T式ひらがな音読支援の理論と実践. 中山書店; 2022.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。