ADHDとは?子どもの「落ち着きがない」「忘れっぽい」を理解するために

ADHDの落ち着きのなさや忘れっぽさを解説する記事のアイキャッチ画像

子どもが何度言っても忘れてしまう。じっと座っていられない。順番を待てず、友だちとトラブルになる。こうしたことが続くと、保護者の方は「私の育て方が悪いのかな」「この子はわざとしているのかな」と悩んでしまうことがあります。
しかし、ADHDはしつけ不足や、本人の怠けによって起こるものではありません。不注意・多動性・衝動性が生活の中に表れやすくなる神経発達症です。大切なのは、目の前の行動だけを責めるのではなく、その背景で子どもが何に困っているのかを理解することです。

この記事で分かること

・ADHDとはどのような神経発達症か
・不注意、多動性、衝動性の特徴
・目に見える行動の背景にある子どもの困り感
・ADHDの診断で確認すること
・医療機関や地域に相談する目安

ADHDは珍しい特性ではありません

ADHDの有病率や発症時期の解説図

ADHD(注意欠如・多動症)は、DSM-5-TRやICD-11で神経発達症に分類されています。小児のおよそ5%にみられるとされ、決して珍しいものではありません。
幼児期から小学校低学年では、走り回る、席を離れる、思いついたことをすぐ行動に移すといった多動性や衝動性が目立ちやすい傾向があります。一方、成長すると目立つ多動は減っても、忘れ物、予定管理、段取りの苦手さなどが残ることがあります。研究によっては、子どもの頃にADHDと診断された人のうち、約65%で成人期にも何らかの症状が続くことが示唆されています。そのため、ADHDを「幼いから落ち着きがないだけ」と考えるのではなく、成長に応じて困りごとの形が変わる可能性を見通しながら支えることが大切です。

行動に表れやすい3つの主な特徴

ADHDの不注意・多動性・衝動性の3つの特徴

ADHDの主な症状は、不注意・多動性・衝動性の3つです。ただし、現れ方や強さは子どもによって異なります。

不注意

集中が長く続きにくい、細かなミスが多い、指示を聞き落とす、忘れ物が多いといった特徴です。本人は聞く気がないわけではありません。周囲の音や動き、目に入った物、頭に浮かんだ別の考えへ注意が移りやすいため、必要な情報を保ち続けることが難しいのです。

多動性

手足をそわそわ動かす、座っていることが難しい、静かに遊べない、必要以上に話し続けるといった特徴です。特に幼い時期には「落ち着きがない」と見られやすくなりますが、本人にとっては動きを抑え続けること自体が大きな負担になっている場合があります。

衝動性

質問が終わる前に答える、順番を待てない、相手の話に割り込む、思いついた行動をすぐ始めるといった特徴です。悪気があるのではなく、行動する前に一度立ち止まり、結果を考えることが苦手なのです。

見えている行動の下にある「困り感」

ADHDの目に見える行動と背景にある困り感を示す氷山モデル

ADHDの子どもは、「何度言えば分かるの」「ちゃんと聞いて」「落ち着きなさい」と注意される経験が増えやすい傾向があります。しかし、目に見える行動は氷山の一角です。その下には、「頑張っているのに失敗する」「どうすればよいか分からない」「また叱られるかもしれない」という本人の困り感が隠れています。
失敗と叱責が重なると、子どもは「自分はできない子だ」と感じ、自信や意欲を失いやすくなります。さらに、反抗的に見える態度、不安、気分の落ち込み、攻撃的な行動などが加わり、親子ともに苦しくなる悪循環に陥ることがあります。危険な行動や人を傷つける行動は、もちろん止める必要があります。ただし、行動を止めたあとには、「次はどうすればよいか」を具体的に伝えることが大切です。

ADHDの子どもはどのような世界を見ているのか

ADHDの子どもがシグナルとノイズを区別しにくいイメージ

ADHDの子どもの情報の受け取り方を理解するために、「シグナル」と「ノイズ」というイメージで考えてみましょう。私たちは、今注目すべき情報である「シグナル」と、背景にある余計な刺激である「ノイズ」を自然に分けています。しかし、ADHDの子どもの中には、この区別が難しい子もいます。先生の説明を聞いているときにも、鉛筆の音、廊下の足音、壁の掲示物、友だちの動き、頭に浮かんだ別の考えが、先生の声と同じくらい強く入ってくることがあります。外からは「話を聞いていない」ように見えても、本人は多くの刺激の中から必要な情報を探そうとしているのです。また、ADHDでは、行動を計画したり、結果を予測したりする「実行機能」や、時間を見積もる感覚に特徴がみられることがあります。こうした時間感覚の特徴が、待てない、段取りが苦手、場当たり的に見える行動につながります。

ADHDの診断はどのように行われるのか

ADHDの診断で確認するポイント

不注意や多動が少しあるだけで、ADHDと診断されるわけではありません。診断では、不注意または多動性・衝動性の特徴が12歳以前からみられ、一定期間続いていることを確認します。また、家庭だけ、あるいは学校だけではなく、複数の生活場面で特徴がみられ、そのために学習、生活、人間関係などに困難が生じていることが重要です。
ADHD-RSなどの質問紙や、WISC-Vなどの知能検査が参考になることもありますが、検査だけで診断が決まるわけではありません。睡眠不足や睡眠障害、不安や気分の落ち込み、学習や言語の困難、ASD、チックなどが併存したり、ADHDに似た様子を示したりすることがあります。ほかの原因や併存する困りごとも含めて、総合的に評価することが重要です。

医療機関や地域に相談する目安

落ち着きのなさや忘れ物があるだけで、すぐにADHDと考える必要はありません。一方で、家庭や園・学校での困りごとが長く続いている、学習や友人関係に影響している、叱られることが増えて本人が自信を失っている、保護者だけでは対応が難しいと感じる場合には、小児科、児童精神科、地域の発達相談などに相談してください。診断をつけることだけが相談の目的ではありません。子どもの得意なことと苦手なことを整理し、家庭や学校で過ごしやすくする方法を一緒に考えることが大切です。

まとめ

ADHDは、しつけや努力不足ではなく、脳の認知機能の違いに基づく神経発達症です。子どもの「困った行動」の奥には、本人の「うまくできなくて困っている気持ち」があります。「なぜできないの?」と責めるのではなく、「どうすればできる形にできるだろう」と考えることが、支援の第一歩です。
保護者の方だけで抱え込む必要はありません。困りごとが続くときは、園や学校、医療機関、地域の発達相談などに相談してください。

参考文献

山下裕史朗. 小児内科, 2023; 55: 848-852.
林隆. 児童青年精神医学とその近接領域, 2020; 61: 278-288.
江頭優佳, 岡田俊. 日本生理人類学会誌, 2020; 25: 109-115.
American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders : DSM-5-TR. 5th , text revision ed: American Psychiatric Association, 2022; 66-74.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。