
限局性学習症(SLD)の子どもは、内容を理解する力を持っていても、読む・書く・計算することが壁となり、自分の力を十分に表現できない場合があります。必要なのは、苦手な方法をただ繰り返させることではありません。学習の目的に合わせて負担を減らし、音声、図、具体物、ICT機器などを利用することで、本来の理解力や考える力を発揮しやすくなります。
この記事では、学校と家庭でできる支援に加え、外来で行っている読字障害への2段階の音読指導を中心に解説します。限局性学習症の特徴、診断、相談の目安については、「限局性学習症(SLD)とは?読み・書き・算数の困難と二次障害を防ぐために」で解説しています。
支援では「学習の目的」と「負担」を分ける

支援を考えるときは、次の2つを分けます。
- 今、身につけることを目指している力は何か
- その学習を妨げている負担は何か
例えば、算数の考え方を学ぶ時間であれば、問題文を大人が読み上げても構いません。理科や社会の内容を理解する時間であれば、漢字を手書きする代わりに、口頭やキーボードで答える方法があります。これは甘やかしではありません。不要な障壁を減らし、本来の学習目標に取り組めるようにする支援です。
そして、学習への支援には2つの軸があります。
- 読み書きの力を少しずつ伸ばす指導
- 読み上げやICTなどを使い、現在の学ぶ機会を保障する配慮
どちらか一方を選ぶのではなく、必要に応じて並行して行います。
読字障害では、まず読みの力を育てる
日常会話ができても、教科書で使われる書き言葉を十分に理解できるとは限りません。文字を読むことに大きな負担があると、内容を考える前に疲れてしまいます。特に小学校低学年では、まず文字と音を結びつけ、正確かつ滑らかに読めるようになることを支えます。
発達性ディスレクシアでは、言葉の音のまとまりを扱う音韻処理の困難が、重要な背景の一つと考えられています。読み始めは文字を一つずつ音に変換しますが、習熟すると、知っている単語を一つのまとまりとして素早く認識できるようになります。外来では、この流れを意識して、次の2段階で音読指導を行っています。
読字障害への支援の一例:2段階指導
ここで紹介する2段階指導は、読字障害への支援方法の一例です。すべての子どもに同じ方法が適しているわけではなく、読みの状態、年齢、認知特性、本人の負担などに応じて内容を調整します。

第1段階では、音読指導用のアプリなどを使い、画面に示された文字と読みを対応させる練習を反復します。目標は、文字を見たときに対応する音を、正確かつ滑らかに思い出せるようにすることです。最初から長い文章を何度も読ませるのではなく、子どもが取り組める短い課題に絞ります。読み間違えたときは、叱ったり、分からないまま反復させたりせず、正しい読みを伝えてから再度確認します。「前より滑らかに読めた」「間違いが減った」という小さな成功体験を積むことが重要です。

文字と音の対応が安定してきたら、次は一文字ずつではなく、単語をまとまりとして認識できる語彙を増やします。実際に行う際は、子どもの読みの状態を評価したうえで、学校や医療・支援機関と方法を相談することが望まれます。大切なのは、読み方と意味を教えて終わらず、実際に例文を作るところまで進めることです。
例えば、「工夫」という言葉を扱う場合を考えてみましょう。まず大人が「くふう」と読み、「目的に合うように、よい方法を考えることだよ」と説明します。次に、子どもにも「くふう」と音読してもらい、最後に例文を作ります。はじめは大人が例文を作り、主語を入れ替えるだけなど簡単なやり方で例文を作成してもらってもよいでしょう。
(大人)物を落とさないように、紐をつける工夫をした
(子ども)忘れ物をしないように、メモを貼る工夫をした
このように、自分の経験と結びつけて使うことで、言葉の音、意味、使い方が一つのまとまりとして定着しやすくなります。一度に多くの言葉を扱う必要はありません。本人が負担なく取り組める少ない量から始め、定着の様子を確認しながら進めます。
語彙指導へ進んだ後も、文字と音の対応が不安定な場合には、必要に応じて解読練習を継続します。頻度や課題量は、学年、読みの状態、本人の負担を見ながら調整します。
この2段階指導は、すべての子どもに同じ方法や速度で行うものではありません。困難の内容や併存する特性に応じて、学校や医療・支援機関と相談しながら進めることが大切です。
学校でできる支援

高学年になり、ひらがなは読めても長い文章を読むことに大きな負担がある場合には、読みやすくする工夫と、文字を読まなくても学べる方法を組み合わせます。
- 指や定規で文字を追う
- 漢字にルビをつけたり、文字を大きくして行間を広げたりする
- 長い文章を短いまとまりに分ける
- 音声教材や読み上げ機能を利用する
- 保護者や先生が問題文を読み上げる
- 必要に応じて試験時間を延長する
音読が苦手な子どもを、予告なくみんなの前で読ませることは、大きな心理的負担になります。本人が希望しない場合には、無理に指名しない配慮も必要です。読む練習は大切ですが、理科や社会など内容を学ぶ時間まで、読字の困難によって学ぶ機会を失わせないことが重要です。
学校側と下記の相談ができると良いでしょう。写真やタブレット入力などは学校の許可が必要です。
- 板書内容をプリントで渡す
- 板書を写真で記録する
- タブレットやパソコンで入力する
- 音声入力や口頭回答を認める
- 漢字の正確さと文章内容の評価を分ける
作文の目的が「自分の考えを伝えること」であれば、すべてを手書きに限定する必要はありません。一方、文字を書く練習そのものが目的なら、課題量を本人が取り組める範囲に絞ります。
算数では、数の意味、計算手順、図形、文章題のどこでつまずいているかを確認します。
- おはじきやブロックなどの具体物を使う
- 計算の手順を一つずつ示したり、手順表を作ったりする
- マス目や定規を使って位をそろえる
- 学習目的に応じて電卓を利用する
- 問題数や試験時間を調整する
文章題の考え方を学ぶ時間には、計算の負担を電卓で軽くすることができます。反対に、計算そのものを練習する時間には、問題数や難易度を調整します。
学校には「診断名」より具体的な支援方法を伝える
合理的配慮とは、子どもがほかの子どもと同じように教育へ参加できるよう、本人の困難に応じて学習方法や環境を調整することです。学校へ相談するときは、診断名だけでなく、次のように具体的に説明します。
- 問題文を読んでもらえば内容を理解できる
- 板書を減らすと先生の説明を聞ける
- キーボードなら自分の考えを文章にできる
- 時間があれば正確に答えられる
「何ができないか」だけでなく、「どのような支援があるとできるのか」を共有することが大切です。配慮後にできるようになったことと、まだ難しいことを、本人、家庭、学校で確認しながら調整します。
家庭では達成感と本への興味を守る
自分で読むことが苦手でも、物語を聞くことを楽しめる子どもは少なくありません。家庭では絵本の読み聞かせなど、年齢相応の内容や語彙に触れる機会を作ります。学童期であれば、
最初は漫画でも構いません。本屋や図書館で本人が興味を持つ本を選び、家族が本を読む姿を見せることも、本に親しむ下地になります。
宿題に毎日何時間もかかる場合は、その量や方法が本人の力に合っていない可能性があります。担任の先生と相談し、次のような調整を検討します。
- 問題数を減らす
- 同じ内容の反復を減らす
- 書く代わりに口頭で確認する
- 学習時間を決め、時間になったら終了する
「全部できるまで終われない」とすると、疲労によって間違いが増え、親子ともに苦しくなります。短い時間でも、「今日はここまでできた」と終えられることが大切です。
結果だけでなく、工夫や成長を認める

点数や正答数だけでなく、次のような行動も具体的に認めます。
- 分からないところを質問できた
- 休憩した後に再開できた
そして、子どもには繰り返し伝えてください。
頭が悪いわけではない
努力していないわけでもない
学びやすい方法を一緒に探していこう
苦手な領域だけで評価され続けると、子どもは自分の価値まで低く感じてしまいます。得意なことや好きなことを認められる経験が、学習を続ける力になります。
まとめ
SLDの支援では、学習の目的に応じて負担を減らすことが重要です。本記事で紹介した2段階指導では、文字と音を結びつける解読指導と、単語の音・意味・使い方を結びつける語彙指導を、子どもの状態に応じて組み合わせます。読み上げ、プリント、ICT機器、電卓、試験時間の調整などを活用し、家庭と学校が「どのような支援があるとできるのか」を共有しましょう。
参考文献
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