小児科医が伝える こどもの発達と病気 https://shounikai-kosodate-information.com Sat, 01 Aug 2026 04:08:52 +0000 ja hourly 1 限局性学習症(SLD)の支援|学校・家庭での工夫と読字障害への2段階指導 https://shounikai-kosodate-information.com/sld-support/ Thu, 30 Jul 2026 09:32:26 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=281 SLDでみられる、音読の遅さ、漢字の覚えにくさ、文章を書く難しさ

限局性学習症(SLD)の子どもは、内容を理解する力を持っていても、読む・書く・計算することが壁となり、自分の力を十分に表現できない場合があります。必要なのは、苦手な方法をただ繰り返させることではありません。学習の目的に合わせて負担を減らし、音声、図、具体物、ICT機器などを利用することで、本来の理解力や考える力を発揮しやすくなります。
この記事では、学校と家庭でできる支援に加え、外来で行っている読字障害への2段階の音読指導を中心に解説します。限局性学習症の特徴、診断、相談の目安については、「限局性学習症(SLD)とは?読み・書き・算数の困難と二次障害を防ぐために」で解説しています。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

この記事で分かること

・SLDの支援で大切な基本的な考え方
・読字障害に対する2段階指導の考え方
・読む・書く・算数の負担を減らす方法
・学校で相談できる合理的配慮
・家庭で学習への自信を守るための工夫

支援では「学習の目的」と「負担」を分ける

SLDの支援では、学習の目的と読み書きによる負担を分けて考える

支援を考えるときは、次の2つを分けます。

  1. 今、身につけることを目指している力は何か
  2. その学習を妨げている負担は何か

例えば、算数の考え方を学ぶ時間であれば、問題文を大人が読み上げても構いません。理科や社会の内容を理解する時間であれば、漢字を手書きする代わりに、口頭やキーボードで答える方法があります。これは甘やかしではありません。不要な障壁を減らし、本来の学習目標に取り組めるようにする支援です。


そして、学習への支援には2つの軸があります。

  1. 読み書きの力を少しずつ伸ばす指導
  2. 読み上げやICTなどを使い、現在の学ぶ機会を保障する配慮

どちらか一方を選ぶのではなく、必要に応じて並行して行います。

読字障害では、まず読みの力を育てる

日常会話ができても、教科書で使われる書き言葉を十分に理解できるとは限りません。文字を読むことに大きな負担があると、内容を考える前に疲れてしまいます。特に小学校低学年では、まず文字と音を結びつけ、正確かつ滑らかに読めるようになることを支えます。
発達性ディスレクシアでは、言葉の音のまとまりを扱う音韻処理の困難が、重要な背景の一つと考えられています。読み始めは文字を一つずつ音に変換しますが、習熟すると、知っている単語を一つのまとまりとして素早く認識できるようになります。外来では、この流れを意識して、次の2段階で音読指導を行っています。

読字障害への支援の一例:2段階指導

ここで紹介する2段階指導は、読字障害への支援方法の一例です。すべての子どもに同じ方法が適しているわけではなく、読みの状態、年齢、認知特性、本人の負担などに応じて内容を調整します。

第1段階:文字と音を結びつける「解読指導」

読字障害の解読指導で、文字と音の対応を身につける流れ

第1段階では、音読指導用のアプリなどを使い、画面に示された文字と読みを対応させる練習を反復します。目標は、文字を見たときに対応する音を、正確かつ滑らかに思い出せるようにすることです。最初から長い文章を何度も読ませるのではなく、子どもが取り組める短い課題に絞ります。読み間違えたときは、叱ったり、分からないまま反復させたりせず、正しい読みを伝えてから再度確認します。「前より滑らかに読めた」「間違いが減った」という小さな成功体験を積むことが重要です。

第2段階:単語をまとまりとして定着させる「語彙指導」

単語の読み、意味、例文を結びつけて語彙を定着させる指導

文字と音の対応が安定してきたら、次は一文字ずつではなく、単語をまとまりとして認識できる語彙を増やします。実際に行う際は、子どもの読みの状態を評価したうえで、学校や医療・支援機関と方法を相談することが望まれます。大切なのは、読み方と意味を教えて終わらず、実際に例文を作るところまで進めることです。
例えば、「工夫」という言葉を扱う場合を考えてみましょう。まず大人が「くふう」と読み、「目的に合うように、よい方法を考えることだよ」と説明します。次に、子どもにも「くふう」と音読してもらい、最後に例文を作ります。はじめは大人が例文を作り、主語を入れ替えるだけなど簡単なやり方で例文を作成してもらってもよいでしょう。

 (大人)物を落とさないように、紐をつける工夫をした

 (子ども)忘れ物をしないように、メモを貼る工夫をした

このように、自分の経験と結びつけて使うことで、言葉の音、意味、使い方が一つのまとまりとして定着しやすくなります。一度に多くの言葉を扱う必要はありません。本人が負担なく取り組める少ない量から始め、定着の様子を確認しながら進めます。
語彙指導へ進んだ後も、文字と音の対応が不安定な場合には、必要に応じて解読練習を継続します。頻度や課題量は、学年、読みの状態、本人の負担を見ながら調整します。
この2段階指導は、すべての子どもに同じ方法や速度で行うものではありません。困難の内容や併存する特性に応じて、学校や医療・支援機関と相談しながら進めることが大切です。

学校でできる支援

音声教材、ICT、宿題量の調整を活用したSLDへの環境調整

読む負担を減らす

高学年になり、ひらがなは読めても長い文章を読むことに大きな負担がある場合には、読みやすくする工夫と、文字を読まなくても学べる方法を組み合わせます。

  • 指や定規で文字を追う
  • 漢字にルビをつけたり、文字を大きくして行間を広げたりする
  • 長い文章を短いまとまりに分ける
  • 音声教材や読み上げ機能を利用する
  • 保護者や先生が問題文を読み上げる
  • 必要に応じて試験時間を延長する

音読が苦手な子どもを、予告なくみんなの前で読ませることは、大きな心理的負担になります。本人が希望しない場合には、無理に指名しない配慮も必要です。読む練習は大切ですが、理科や社会など内容を学ぶ時間まで、読字の困難によって学ぶ機会を失わせないことが重要です。

書く負担を減らす

学校側と下記の相談ができると良いでしょう。写真やタブレット入力などは学校の許可が必要です。

  • 板書内容をプリントで渡す
  • 板書を写真で記録する
  • タブレットやパソコンで入力する
  • 音声入力や口頭回答を認める
  • 漢字の正確さと文章内容の評価を分ける

作文の目的が「自分の考えを伝えること」であれば、すべてを手書きに限定する必要はありません。一方、文字を書く練習そのものが目的なら、課題量を本人が取り組める範囲に絞ります。

算数の負担を調整する

算数では、数の意味、計算手順、図形、文章題のどこでつまずいているかを確認します。

  • おはじきやブロックなどの具体物を使う
  • 計算の手順を一つずつ示したり、手順表を作ったりする
  • マス目や定規を使って位をそろえる
  • 学習目的に応じて電卓を利用する
  • 問題数や試験時間を調整する

文章題の考え方を学ぶ時間には、計算の負担を電卓で軽くすることができます。反対に、計算そのものを練習する時間には、問題数や難易度を調整します。

学校には「診断名」より具体的な支援方法を伝える

合理的配慮とは、子どもがほかの子どもと同じように教育へ参加できるよう、本人の困難に応じて学習方法や環境を調整することです。学校へ相談するときは、診断名だけでなく、次のように具体的に説明します。

  • 問題文を読んでもらえば内容を理解できる
  • 板書を減らすと先生の説明を聞ける
  • キーボードなら自分の考えを文章にできる
  • 時間があれば正確に答えられる

「何ができないか」だけでなく、「どのような支援があるとできるのか」を共有することが大切です。配慮後にできるようになったことと、まだ難しいことを、本人、家庭、学校で確認しながら調整します。

家庭では達成感と本への興味を守る

読み聞かせで語彙を育てる

自分で読むことが苦手でも、物語を聞くことを楽しめる子どもは少なくありません。家庭では絵本の読み聞かせなど、年齢相応の内容や語彙に触れる機会を作ります。学童期であれば、

最初は漫画でも構いません。本屋や図書館で本人が興味を持つ本を選び、家族が本を読む姿を見せることも、本に親しむ下地になります。

宿題の量と時間を調整する

宿題に毎日何時間もかかる場合は、その量や方法が本人の力に合っていない可能性があります。担任の先生と相談し、次のような調整を検討します。

  • 問題数を減らす
  • 同じ内容の反復を減らす
  • 書く代わりに口頭で確認する
  • 学習時間を決め、時間になったら終了する

「全部できるまで終われない」とすると、疲労によって間違いが増え、親子ともに苦しくなります。短い時間でも、「今日はここまでできた」と終えられることが大切です。

結果だけでなく、工夫や成長を認める

読み書きだけでなく、発想力、口頭理解、対人関係などの得意な力も評価する

点数や正答数だけでなく、次のような行動も具体的に認めます。

  • 分からないところを質問できた
  • 休憩した後に再開できた

そして、子どもには繰り返し伝えてください。

頭が悪いわけではない
努力していないわけでもない
学びやすい方法を一緒に探していこう

苦手な領域だけで評価され続けると、子どもは自分の価値まで低く感じてしまいます。得意なことや好きなことを認められる経験が、学習を続ける力になります。

まとめ

SLDの支援では、学習の目的に応じて負担を減らすことが重要です。本記事で紹介した2段階指導では、文字と音を結びつける解読指導と、単語の音・意味・使い方を結びつける語彙指導を、子どもの状態に応じて組み合わせます。読み上げ、プリント、ICT機器、電卓、試験時間の調整などを活用し、家庭と学校が「どのような支援があるとできるのか」を共有しましょう。

参考文献

American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association; 2022: 75-83.

加賀佳美, 稲垣真澄. 小児内科. 2019; 51: 1917-1920.

齋藤貴志, 加賀佳美. 小児科臨床. 2019; 72: 1313-1316.

特異的発達障害の臨床診断と治療指針作成に関する研究チーム編. 特異的発達障害 診断・治療のための実践ガイドライン. 診断と治療社; 2010.

小枝達也, 関あゆみ. T式ひらがな音読支援の理論と実践. 中山書店; 2022.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。

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限局性学習症(SLD)とは?読み・書き・算数の困難と二次障害を防ぐために https://shounikai-kosodate-information.com/sld-basics/ Thu, 30 Jul 2026 04:20:08 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=265 限局性学習症は努力不足ではなく、外から見えにくい学習上の困難である

「読めてはいるけれど、音読にとても時間がかかる」
「何度練習しても漢字を覚えにくい」
「話せば説明できるのに、文章を書くことが極端に苦手」

このような様子が続くと、「練習が足りないのでは」「もっと集中すればできるのでは」と考えてしまうことがあります。しかし、読む・書く・算数など、特定の学習領域に続く困難の背景には、限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)が関係している場合があります。
この記事では、SLDの基礎知識と年齢ごとの現れ方、評価の考え方、そして特に重要な二次障害の予防について解説します。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

この記事で分かること

・限局性学習症(SLD)とは何か
・読む・書く・算数の困難がどのように現れるか
・発達性ディスレクシアと音韻処理の関係
・SLDの評価・診断で確認すること
・二次的な不安や不登校を防ぐために大切なこと

限局性学習症(SLD)とは

限局性学習症は、読む・書く・算数など、学習に必要な特定の技能の習得や使用に持続的な困難がみられる神経発達症です。適切な教育や支援を受けていても、同年代と比べて習得に多くの時間と負担を要し、学校生活や日常生活に支障が生じます。全般的な知的発達の遅れ、視力や聴力の問題、学習機会の不足だけでは説明できないことも特徴です。以前から「学習障害」や「LD」という言葉が使われていますが、医学的には「限局性学習症」または「限局性学習障害」と呼ばれます。

SLDの困難は、大きく次の3つに分けられます。
 ・読むこと
 ・書くこと
 ・算数・計算
これらは一つだけみられることも、複数が重なってみられることもあります。なかでも最も多いのは、読むことの困難です。DSM-5-TRでは、学齢期の子どもにおけるSLDの有病率は、言語や文化の違いを含めて5~15%とされています。また、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、発達性協調運動症(DCD)などを併せ持つこともあります。

SLDでみられる3つの学習上の困難

SLDでみられる読字障害、書字障害、算数障害の3つの学習上の困難

読むことの困難

読むことに困難がある子どもは、文字がまったく読めないとは限りません。むしろ「読めるけれど極端に遅い」「読み間違いが多い」「一文字ずつ区切って読み、滑らかに読めない」という形で現れます。例えば、次のような様子がみられます。

  • 文字や単語の読み間違いが多い
  • 一文字ずつ拾うように読んだり、単語や文節の途中で不自然に区切ったりする
  • 行や文字を読み飛ばす
  • 長い文章を読むとひどく疲れる

読字に持続的な困難がみられる状態は、発達性ディスレクシアとも呼ばれます。
口頭で説明されれば理解できる内容でも、教科書や文章題では力を発揮できない場合があります。読むことの困難は、書字の困難を伴うことが少なくなく、国語だけでなく、文章題や教科書を使う多くの教科に影響します。

書くことの困難

書くことの困難は、単に「字が汚い」ということではありません。

  • 板書を書き写すのに時間がかかる
  • 漢字をなかなか覚えられない
  • 送り仮名や小さい「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」を間違える
  • 話せば説明できるのに文章としてまとめられない

文字の形が大きく崩れる場合には、手先の運動や注意の問題が影響していることもあります。字の見た目だけで判断せず、文字を思い出す、形にする、文章を組み立てるという過程のどこに困難があるのかを考えることが大切です。

算数・計算の困難

算数では、次のような困難がみられることがあります。

  • 数の大きさや順序を理解しにくい
  • 繰り上がりや繰り下がりの手順が定着しない
  • 数の関係を考えたり、計算方法を選んだりすることが難しい
  • 文章題で何を計算すればよいか分からない

文章題が苦手な場合には、算数そのものではなく、問題文を読むことや言葉の意味を理解することが影響している場合もあります。

発達性ディスレクシアと「音韻処理」の困難

発達性ディスレクシアでは音韻処理に負担があり、文字と音を結びつけて読むことが難しい

SLDのうち最も多い発達性ディスレクシアでは、音韻処理の困難が重要な背景の一つと考えられています。音韻処理とは、言葉を音のまとまりとして捉え、それを分けたり、つなげたり、文字と対応させたりする力です。日本語では、ひらがな一文字に近い「拍(モーラ)」という音の単位を意識する力が、読みの習得に関係します。つまり、発達性ディスレクシアの子どもは、聴いた言葉の音のまとまりを認識し、文字と結びつけることに大きな負担がかかります。これは、「勉強していないから」「努力していないから」起こるのではありません。

読字に関する脳機能研究では、文字と音を対応させる過程や、見慣れた単語を素早く認識する過程に、左半球の複数の領域が関わることが示されています。読み始めの段階では、一文字ずつ文字と音を結びつけます。読みが習熟すると、見慣れた単語をまとまりとして、より速く認識できるようになります。こうした読みの発達を踏まえた具体的な2段階指導は、後編で説明します。

会話ができても、教科書を理解できるとは限りません

日常会話が流暢であることと、学校で使われる言葉を理解できることは同じではありません。授業や教科書では、「比較する」「予想する」「寸でのところで」など、日常会話ではあまり使わない抽象的な言葉や書き言葉が増えていきます。会話では理解できても、文字を読む負担や書き言葉の語彙の少なさによって、教科書の意味を十分に理解できないことがあります。会話ができるから、学習も問題なくできるとは限りません。「話せるのだから読めるはず」と考えず、学習に必要な言葉の理解を分けて支えることが大切です。
ただし、抽象的な言葉の理解の難しさが、SLDのすべての子どもにみられるわけではありません。読むことへの負担によって書き言葉の語彙を学ぶ機会が減っている場合や、言語発達の課題を併せ持っている場合もあります。そのため、日常会話の力、耳で聞いたときの理解、文字で読んだときの理解を分けて考えることが大切です。

年齢によって現れ方は変わります

SLDの特徴が、就学前、小学校低学年、小学校中学年以降で変化する流れ

就学前

就学前には、文字への関心が乏しい、絵本を避ける、言葉遊びや音の区切りを捉えることが苦手といった傾向がみられることがあります。ただし、これだけでSLDと判断することはできません。就学後の学習経過を丁寧に確認する必要があります。

小学校低学年

小学校低学年では、ひらがなやカタカナの習得、音読、書き写し、足し算や引き算などで困難が目立ち始めます。「まだ低学年だから」と長く様子を見ているうちに、本人が周囲との差を意識し、学習への苦手意識を強めてしまうことがあります。

小学校中学年以降

困難が比較的軽い場合には、文章が長くなり、漢字や英単語が増える中学年以降に気づかれることがあります。板書に時間がかかって先生の説明を聞けない、長い文章を読むだけで疲れる、テストを時間内に終えられないなど、国語以外の教科にも影響が広がります。

診断は一つの検査だけでは決まりません

SLDの診断では発達経過、身体所見、知的能力、学習評価、併存症を総合的に確認する

SLDは、学校の成績や一つの検査結果だけで診断するものではありません。評価では、次のような情報を総合的に判断します。

  • これまでの発達経過や既往歴
  • 身体所見
  • 家庭や学校で困っていること
  • 全般的な知的能力
  • 読み書きや算数の到達状況
  • ADHDやASDなどの併存

診断では、学習上の困難が少なくとも6か月続き、適切な指導や支援を受けても改善しにくく、学校生活などに明らかな支障があることを確認します。必要に応じて、実際に文字や文章を読み上げたときの正確性や流暢性などを評価する検査も行います。ただし、一つの検査結果だけで診断を決めるものではありません。


診断名をつけることだけが医療機関への相談目的ではありません。子どもがどこでつまずき、どのような方法なら学びやすいのかを整理し、必要な支援につなげることが重要です。一方で、以前はできていたことが急にできなくなった、性格や行動が急に変化した、けいれんやふらつきなどを伴う場合には、SLD以外の病気を確認する必要があります。

大切なのは、二次障害を防ぐこと

気づかれないSLDと繰り返される叱責が、自信低下、不安、かんしゃく、不登校につながる流れ

ここでいう二次障害とは、SLDそのものの症状ではなく、学習上の失敗体験、繰り返される叱責、周囲との比較などが重なることで、後から生じる心や行動の問題を指します。SLDに気づかれないまま、「努力が足りない」「真面目に取り組んでいない」と叱られ続けると、子どもは自信を失います。その結果、次のような二次障害につながることがあります。

  • 自己肯定感や自尊感情の低下
  • 学習への強い不安
  • 気分の落ち込み
  • かんしゃくや反抗的な行動
  • 不登校

宿題を始めると泣く、学校の前になると腹痛や頭痛を訴える、「どうせできない」と話す、教科書やノートを隠すといった変化は、すでに大きなストレスを抱えているサインかもしれません。このようなときに、さらに学習量を増やすだけでは状況が悪化します。まず本人の気持ちを聞き、家庭と学校で負担を見直し、必要に応じて医療機関や発達支援機関へ相談してください。

重要なのは、苦手なことだけで子どもを評価しないことです。口頭での理解、発想力、運動、芸術、工作、人との関わりなど、文字や計算だけでは測れない力があります。得意な方法を活用し、成功体験を積める環境を整えることが、学習と心の両方を支えます。

まとめ

限局性学習症(SLD)は、読む・書く・算数など、特定の学習領域に持続的な困難がみられる神経発達症です。本人の努力不足や、保護者の教え方が原因ではありません。なかでも読字障害では、音のまとまりを扱う音韻処理に負担があり、文字と音を結びつけたり、単語をまとまりとして素早く認識したりすることが難しくなります。大切なのは、失敗体験によって自尊感情が低下する前に、本人に合った学び方へつなげることです。

実際の支援については「限局性学習症(SLD)の支援|学校・家庭での工夫と読字障害への2段階指導」で解説しています。

参考文献

American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders: DSM-5-TR. American Psychiatric Association; 2022: 75-83.

加賀佳美, 稲垣真澄. 小児内科. 2019; 51: 1917-1920.

齋藤貴志, 加賀佳美. 小児科臨床. 2019; 72: 1313-1316.

特異的発達障害の臨床診断と治療指針作成に関する研究チーム編. 特異的発達障害 診断・治療のための実践ガイドライン. 診断と治療社; 2010.

小枝達也, 関あゆみ. T式ひらがな音読支援の理論と実践. 中山書店; 2022.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。

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ADHDの子どもへの支援|行動の背景と家庭・学校・医療でできること https://shounikai-kosodate-information.com/adhd-support/ Fri, 24 Jul 2026 04:48:21 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=238 ADHDの支援は、目立つ行動を一時的に抑えることだけが目的ではありません。子どもが自分の特性を理解し、自信を失わず、本来の力を発揮できるようにすることが大切です。そのためには、まず「なぜその行動が起こるのか」を理解し、次に環境や関わり方を整え、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。家庭だけで頑張るのではなく、園や学校、医療機関が同じ方向を向いて支えることが重要です。

ADHDの基本的な特徴や診断については、前の記事「ADHDとは?子どもの『落ち着きがない』『忘れっぽい』を理解するために」で解説しています。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

この記事で分かること

・ADHDの困りごとを説明する考え方
・実行機能、待つこと、時間感覚の苦手さ
・家庭や園・学校でできる環境調整
・ペアレントトレーニングの考え方
・薬物療法を検討する場面

ADHDの困りごとを3つの経路から理解する

ADHDの困りごとを、抑制制御、遅延回避、時間処理の3つの経路から理解するモデル


ADHDの多様な困りごとを説明する仮説モデルの一つに、Triple Pathway Model(3経路モデル)があります。このモデルでは、行動を止めたり切り替えたりする「抑制制御」、待つことを避けやすい「遅延回避」、時間の長さや順序を捉える「時間処理」という3つの経路から、ADHDの特徴を考えます。すべての子どもに3つの苦手さが同じようにみられるわけではありません。どこに強い苦手さがあるかを考えることで、その子に合った支援を選びやすくなります。

経路1:行動を止め、切り替えることの苦手さ

ADHDにおける実行機能の苦手さと、集中、行動の抑制、切り替えの困難
ADHDでは必要な情報と周囲の刺激を分けにくく、注意がそれやすいことを示す図

実行機能とは、目標に向かって行動するために、注意を保つ、手順を考える、必要な情報を覚えておく、気持ちや行動を切り替える、余計な行動を止めるといった力です。前頭前野の働きや、ドパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が関係すると考えられています。実行機能に苦手さがあると、宿題を始めても途中で別のことをする、片付けの順番が分からなくなる、指示の一部を忘れる、感情が高ぶると止まりにくいといった困りごとが生じます。
また、前回の記事と同様にシグナルとノイズを例に考えると、必要な情報である「シグナル」と、周囲の刺激である「ノイズ」を分けにくいため、本人は集中しようとしていても、多くの刺激に注意を奪われます。「集中しなさい」と繰り返すだけではなく、集中しやすい環境を作る必要があります。

経路2:待つことの苦手さ(遅延回避)

ADHDでは待つことが負担になり、将来の大きな報酬より目の前の報酬を選びやすい

遅延報酬障害とは、あとで得られる大きな達成感より、今すぐ得られる小さな楽しさを選びやすい特徴です。これは単なる我慢不足ではありません。待つことそのものが強い苦痛になり、目の前の刺激に引っ張られやすいのです。「宿題が全部終わったら遊べる」と伝えても、終わりまでが遠いと頑張り続けにくいことがあります。
「5分取り組む」「1問終わったら確認する」「ここまでできたらシールを貼る」など、達成までの距離を短くします。小さな成功をすぐ認めることで、子どもは次の行動へ進みやすくなります。

経路3:時間を捉えることの苦手さ

ADHDにおける時間の長さ、順序、見通しを捉えることの苦手さ
目の前の報酬を優先しやすい特徴と、将来を見通して段取りする難しさの比較

時間処理障害とは、時間の長さ、順序、タイミングを捉え、先を見通して段取りすることの苦手さです。「あと10分」がどのくらいか分からない、待ち時間が非常に長く感じる、準備に必要な時間を見積もれないといったことが起こります。その結果、朝の準備が間に合わない、課題の優先順位を決められない、予定を忘れるなど、「だらしない」「見通しがない」と受け取られやすい行動につながります。
タイマー、予定表、手順表などを使い、時間や順番を目で見える形にすると理解しやすくなります。

支援の基本は「理解」から始まる

ADHDへの支援を、特性の理解、環境調整と心理的支援、薬物療法の順に示した図

ADHDの支援では、最初に子どもの行動を「わざと」「反抗」「努力不足」と決めつけないことが重要です。生物学的なしくみを理解すると、子どもを責める関わりから、成功しやすい方法を一緒に探す関わりへ変わっていきます。ただし、特性を理解することは、すべての行動を許すことではありません。危険な行動や人を傷つける行動は明確に止め、そのうえで「次はどうすればよいか」を短く具体的に伝えます。
ADHDへの支援は、次のような順序で考えます。まず、ADHDを性格ではなく、脳の認知機能に基づく特性として理解します。そのうえで、環境調整や心理社会的支援を行います。それでも生活上の困難が大きい場合には、必要に応じて薬物療法を組み合わせます。目標は薬で一時的に症状を抑えることだけではありません。成長したあとも、自分の特性と上手に付き合える力を育てていくことが大切です。

家庭や学校でできる環境調整

刺激を減らす環境調整と、望ましい行動をすぐ認めるペアレントトレーニング

家庭でできる工夫

・指示を一つずつ具体的に伝える
・持ち物や予定を見える化する
・テレビやおもちゃなどの刺激を減らす

園や学校でできる工夫

・座席の位置を調整する
・課題を小さく区切る
・口頭だけでなく板書やプリントでも伝える
・提出物を確認できる仕組みを作る

ADHDの子どもには、努力を増やすよう求める前に、行動しやすい環境を整えることが役立ちます。指示は、「ちゃんとして」ではなく、「プリントを机に出そう」「鉛筆を持とう」のように、一度に一つ、短く具体的に伝えます。朝の準備表、持ち物リスト、予定表を使い、次にすることを見える化するのも有効です。集中する場所では、テレビを消す、机の上のおもちゃを片付ける、壁の掲示物を減らすなど、視覚や聴覚のノイズを減らします。学校では、座席の位置を工夫する、課題を小さく区切る、指示を板書やプリントでも示す、提出物を確認する仕組みを作るといった方法があります。家庭でうまくいった方法を学校に伝え、学校で困っている場面を家庭でも共有すると、支援の方向をそろえやすくなります。

ペアレントトレーニングで好循環を作る

ADHDの子どもは、叱られる経験が増えやすく、自尊心が下がりやすい傾向があります。ペアレントトレーニングは、親の育て方を責めるものではありません。子どもの行動を観察し、望ましい行動を増やす具体的な方法を学ぶ支援です。大切なのは、完璧にできたときだけではなく、良い行動の始まりを見つけることです。片付けが全部終わっていなくても、「最初の一つを箱に入れられたね」と、その場ですぐ具体的に伝えます。「悪い行動を見つけて叱る」悪循環から、「できた行動を見つけて認める」好循環へ変わると、子どもは「自分にもできる」という感覚を取り戻しやすくなります。保護者の方自身の負担を減らすことも、ペアレントトレーニングの大切な目的です。

ペアレントトレーニングの具体的な方法は、「『ほめる・無視する・止める』で親子の悪循環を変える」で詳しく解説しています。

薬物療法は必要に応じて検討する

小児ADHD治療薬を中枢刺激薬と非中枢刺激薬に分け、主な特徴と副作用を比較した表

困りごとが大きく、環境調整や心理社会的支援だけでは十分に改善しない場合には、薬物療法を検討します。ADHD治療薬は子どもを別人にするためのものではありません。脳内の神経伝達に作用し、不注意や多動性・衝動性などの症状を和らげ、本人の努力が生活の中で実を結びやすくなることを目指します。
国内で小児ADHDに用いられる薬には、中枢刺激薬のメチルフェニデート徐放製剤(コンサータ🄬)とリスデキサンフェタミン(ビバンセ🄬)、非中枢刺激薬のアトモキセチン(ストラテラ🄬)とグアンファシン徐放製剤(インチュニブ🄬)があります。薬によって、効果が現れるまでの時間、作用する長さ、服用方法、副作用が異なります。食欲、体重、睡眠などに加え、薬剤に応じて血圧や脈拍も確認しながら、医師と相談して効果と副作用を評価します。
薬物療法だけで支援を完結させず、環境調整、親子関係への支援、学校との連携を続けることが大切です。

まとめ

ADHDの支援で大切なのは、子どもを無理に変えることではなく、子どもが成功しやすい条件を整えることです。短く具体的に伝える、刺激を減らす、時間や手順を見える化する、できた行動をすぐ認める。こうした小さな工夫が、子どもの自信を守ります。 保護者の方が一人で全部を抱え込む必要はありません。家庭、園や学校、医療機関、地域の相談機関がつながり、その子に合った方法を一緒に探すことが、長く続けられる支援につながります。

参考文献

山下裕史朗. 小児内科, 2023; 55: 848-852.
林隆. 児童青年精神医学とその近接領域, 2020; 61: 278-288.
江頭優佳, 岡田俊. 日本生理人類学会誌, 2020; 25: 109-115.
American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders : DSM-5-TR. 5th , text revision ed: American Psychiatric Association, 2022; 66-74.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。

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ADHD (注意欠如多動症) とは?子どもの「落ち着きがない」「忘れっぽい」を理解するために https://shounikai-kosodate-information.com/adhd-basics/ Thu, 23 Jul 2026 09:03:08 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=216 ADHDの落ち着きのなさや忘れっぽさを解説する記事のアイキャッチ画像

子どもが何度言っても忘れてしまう。じっと座っていられない。順番を待てず、友だちとトラブルになる。こうしたことが続くと、保護者の方は「私の育て方が悪いのかな」「この子はわざとしているのかな」と悩んでしまうことがあります。
しかし、ADHD(注意欠如多動症)はしつけ不足や、本人の怠けによって起こるものではありません。不注意・多動性・衝動性が生活の中に表れやすくなる神経発達症です。大切なのは、目の前の行動だけを責めるのではなく、その背景で子どもが何に困っているのかを理解することです。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

この記事で分かること

・ADHDとはどのような神経発達症か
・不注意、多動性、衝動性の特徴
・目に見える行動の背景にある子どもの困り感
・ADHDの診断で確認すること
・医療機関や地域に相談する目安

ADHDは珍しい特性ではありません

ADHDの有病率や発症時期の解説図

ADHDは、DSM-5-TRやICD-11で神経発達症に分類されています。小児のおよそ5%にみられるとされ、決して珍しいものではありません。
幼児期から小学校低学年では、走り回る、席を離れる、思いついたことをすぐ行動に移すといった多動性や衝動性が目立ちやすい傾向があります。一方、成長すると目立つ多動は減っても、忘れ物、予定管理、段取りの苦手さなどが残ることがあります。研究によっては、子どもの頃にADHDと診断された人のうち、約65%で成人期にも何らかの症状が続くことが示唆されています。そのため、ADHDを「幼いから落ち着きがないだけ」と考えるのではなく、成長に応じて困りごとの形が変わる可能性を見通しながら支えることが大切です。

行動に表れやすい3つの主な特徴

ADHDの不注意・多動性・衝動性の3つの特徴

ADHDの主な症状は、不注意・多動性・衝動性の3つです。そして、気持ちの切り替えが苦手など、感情コントロールの困難さもみられます。ただし、現れ方や強さは子どもによって異なります。

不注意

集中が長く続きにくい、細かなミスが多い、指示を聞き落とす、忘れ物が多いといった特徴です。本人は聞く気がないわけではありません。周囲の音や動き、目に入った物、頭に浮かんだ別の考えへ注意が移りやすいため、必要な情報を保ち続けることが難しいのです。

多動性

手足をそわそわ動かす、座っていることが難しい、静かに遊べない、必要以上に話し続けるといった特徴です。特に幼い時期には「落ち着きがない」と見られやすくなりますが、本人にとっては動きを抑え続けること自体が大きな負担になっている場合があります。

衝動性

質問が終わる前に答える、順番を待てない、相手の話に割り込む、思いついた行動をすぐ始めるといった特徴です。悪気があるのではなく、行動する前に一度立ち止まり、結果を考えることが苦手なのです。

見えている行動の下にある「困り感」

ADHDの目に見える行動と背景にある困り感を示す氷山モデル

ADHDの子どもは、「何度言えば分かるの」「ちゃんと聞いて」「落ち着きなさい」と注意される経験が増えやすい傾向があります。しかし、目に見える行動は氷山の一角です。その下には、「頑張っているのに失敗する」「どうすればよいか分からない」「また叱られるかもしれない」という本人の困り感が隠れています。
失敗と叱責が重なると、子どもは「自分はできない子だ」と感じ、自信や意欲を失いやすくなります。さらに、反抗的に見える態度、不安、気分の落ち込み、攻撃的な行動などが加わり、親子ともに苦しくなる悪循環に陥ることがあります。危険な行動や人を傷つける行動は、もちろん止める必要があります。ただし、行動を止めたあとには、「次はどうすればよいか」を具体的に伝えることが大切です。

ADHDの子どもはどのような世界を見ているのか

ADHDの子どもがシグナルとノイズを区別しにくいイメージ

ADHDの子どもの情報の受け取り方を理解するために、「シグナル」と「ノイズ」というイメージで考えてみましょう。私たちは、今注目すべき情報である「シグナル」と、背景にある余計な刺激である「ノイズ」を自然に分けています。しかし、ADHDの子どもの中には、この区別が難しい子もいます。先生の説明を聞いているときにも、鉛筆の音、廊下の足音、壁の掲示物、友だちの動き、頭に浮かんだ別の考えが、先生の声と同じくらい強く入ってくることがあります。外からは「話を聞いていない」ように見えても、本人は多くの刺激の中から必要な情報を探そうとしているのです。また、ADHDでは、行動を計画したり、結果を予測したりする「実行機能」や、時間を見積もる感覚に特徴がみられることがあります。こうした時間感覚の特徴が、待てない、段取りが苦手、場当たり的に見える行動につながります。

ADHDの診断はどのように行われるのか

ADHDの診断で確認するポイント

不注意や多動が少しあるだけで、ADHDと診断されるわけではありません。診断では、不注意または多動性・衝動性の特徴が12歳以前からみられ、一定期間続いていることを確認します。また、家庭だけ、あるいは学校だけではなく、複数の生活場面で特徴がみられ、そのために学習、生活、人間関係などに困難が生じていることが重要です。
ADHD-RSなどの質問紙や、WISC-Vなどの知能検査が参考になることもありますが、検査だけで診断が決まるわけではありません。睡眠不足や睡眠障害、不安や気分の落ち込み、学習や言語の困難、ASD、チックなどが併存したり、ADHDに似た様子を示したりすることがあります。ほかの原因や併存する困りごとも含めて、総合的に評価することが重要です。

医療機関や地域に相談する目安

落ち着きのなさや忘れ物があるだけで、すぐにADHDと考える必要はありません。一方で、家庭や園・学校での困りごとが長く続いている、学習や友人関係に影響している、叱られることが増えて本人が自信を失っている、保護者だけでは対応が難しいと感じる場合には、医療機関や地域の発達相談センターに相談してください。危険な行動がある、睡眠や気分の問題もみられる、保護者や先生の負担が大きくなっている場合も相談の目安です。医療機関に相談する目的は、診断をつけたり、薬を始めることだけではありません。子どもの特徴や併存する困りごとを整理し、家庭や学校で取り入れられる支援を一緒に考えることも重要です。

まとめ

ADHDは、しつけや努力不足ではなく、脳の認知機能の違いに基づく神経発達症です。子どもの「困った行動」の奥には、本人の「うまくできなくて困っている気持ち」があります。「なぜできないの?」と責めるのではなく、「どうすればできる形にできるだろう」と考えることが、支援の第一歩です。
保護者の方だけで抱え込む必要はありません。困りごとが続くときは、園や学校、医療機関、地域の発達相談などに相談してください。

ADHDの子どもへの具体的な関わり方や、家庭・園・学校でできる工夫については、「ADHDの子どもへの支援|行動の背景と家庭・学校・医療でできること」で詳しく解説しています。

参考文献

山下裕史朗. 小児内科, 2023; 55: 848-852.
林隆. 児童青年精神医学とその近接領域, 2020; 61: 278-288.
江頭優佳, 岡田俊. 日本生理人類学会誌, 2020; 25: 109-115.
American Psychiatric Association. Diagnostic and statistical manual of mental disorders : DSM-5-TR. 5th , text revision ed: American Psychiatric Association, 2022; 66-74.

注意

この記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。個別の診断や治療方針を決めるものではありません。お子さんの症状について心配な場合は、医療機関へご相談ください。

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「ほめる・無視する・止める」で親子の悪循環を変える:今日からできるペアレントトレーニング https://shounikai-kosodate-information.com/parent-training-basics/ Mon, 06 Jul 2026 12:35:12 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=61

子どもに何度言っても伝わらない。気づけば朝から晩まで叱ってばかりで、寝顔を見ながら「今日も怒りすぎた」と落ち込んでしまう。子育ての中で、そんな日が続くことは決して珍しくありません。特に発達特性のある子どもは、注意を保つこと、気持ちを切り替えること、衝動を止めることが苦手なため、親の努力だけではうまくいかない場面が増えやすくなります。 ペアレントトレーニングは、親を責めるための方法ではありません。子どもを変える子どもの行動をよく観察し、関わり方を少し整理することで、親子のしんどい悪循環をゆるめていくための考え方です。ポイントは、子どもの行動を「増やしたい行動」「減らしたい行動」「許容できない行動」の3つに分け、それぞれに「ほめる」「無視する」「止める」で対応することです。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

まずは「増やしたい行動」をほめる

最初に取り組みたいのは、子どものよい行動を見つけてほめることです。ここで大切なのは、「すばらしいことをしたからほめる」のではなく、「これから増えてほしい行動をしたからほめる」という視点です。

たとえば、声をかけたらゲームを一度止めた、靴をそろえた、ゴミをゴミ箱に入れた、兄弟に手を出さずに我慢できた。大人から見ると当たり前に思える行動でも、その子にとっては大きな一歩かもしれません。「助かったよ」「自分でできたね」と具体的に伝えることで、子どもは「この行動をするとお母さんが見てくれる」と学びます。 ただし、「いつもそうしてくれたらいいのに」といった余計な一言は、せっかくのほめ言葉を叱責に変えてしまいます。高価なごほうびよりも、笑顔、ハイタッチ、抱きしめることなど、日常の中で続けやすい愛情表現を大切にしましょう。

「無視する」は、子どもを無視することではない

次に大切なのが、「減らしたい行動」への対応です。ここでいう無視とは、子どもの存在や気持ちを無視することではありません。困った行動に巻き込まれず、必要以上に反応しないという意味です。

たとえば、要求が通らないと大声で文句を言う、わざと大人を困らせる言い方をする、注意された後に言い返し続ける。こうした行動に毎回大人が長く反応すると、子どもは「この行動をすると注目してもらえる」と学習してしまうことがあります。

そのため、「それはできないよ」「落ち着いたら話そうね」と短く伝えたら、議論を続けすぎないことが大切です。そして、子どもが少しでも落ち着いた、別の言い方ができた、切り替えようとしたときには、すぐに態度を変えてほめます。無視は冷たく突き放す方法ではなく、望ましい行動に注目を移すための方法です。

危険な行動は、迷わず止める

一方で、すべての困った行動を無視してよいわけではありません。人を叩く、自分を傷つける、道路に飛び出す、物を投げて危険がある、法律に反する行動をするなど、安全に関わる行動は「許容できない行動」として、はっきり止める必要があります。

ここで重要なのは、止める場面を広げすぎないことです。あれもこれも許容できない行動にしてしまうと、親は一日中怒らなければならず、子どもも何を直せばよいのかわからなくなります。危険な行動はその場で短く、強く止める。その後、落ち着いてから「次はどうすればよかったかな」と一緒に考え、望ましい行動を教えていきます。

「ごめんなさい」「次はこうする」と言えたなら、それは増やしたい行動です。反省できたこと、やり直そうとしたことをほめることで、子どもは失敗から戻る道を学んでいきます。

うまくいかないときに見直したいこと

ペアレントトレーニングは、知ったその日から完璧にできるものではありません。大人も子どもも、これまでの関わり方に慣れているため、最初はうまくいかなくて当然です。

うまくいかないときは、まず「ほめる基準が高すぎないか」を見直してみましょう。当たり前に見える行動の中に、実は増やしたい行動が隠れています。次に、「減らしたい行動」と「許容できない行動」が混ざっていないかを確認します。多くの行動を危険行動として扱うと、叱る場面ばかりになってしまいます。また、親の気分や人によって対応が変わると、子どもはどの行動がよいのか学びにくくなります。

大切なのは、子どもを変えようと力で押すことではなく、子どもが学びやすい環境を大人が整えることです。今日できることは、まず一つだけで構いません。朝の支度で一つできたことをほめる。かんしゃくに長く反応しない。危険な行動だけは短く止める。その小さな積み重ねが、親子の関係を少しずつ変えていきます。

お母さん自身を責めないでください

子どもの行動が落ち着かないと、「私の育て方が悪かったのでは?」と感じてしまうお母さんは少なくありません。でも、発達特性のある子どもの行動には、脳の働き方や環境との相互作用が関係しています。親の愛情不足や努力不足だけで説明できるものではありません。

むしろ、毎日悩みながら関わり続けていること自体が、すでに大きな支援です。ペアレントトレーニングは、親がもっと頑張るための道具ではなく、親子が少し楽になるための道具です。完璧にできなくても大丈夫です。今日は一つほめられた。それだけで、子どもにとっては「見てもらえた」という大切な経験になります。

叱る回数をゼロにすることが目標ではありません。子どものよい行動に気づく回数を少し増やし、危険な行動には落ち着いて対応し、親子の中に「できた」「伝わった」「やり直せた」という経験を積み重ねること。それが、家庭でできるペアレントトレーニングの第一歩です。

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発達障害とは?子どもの「脳のタイプ」を理解する https://shounikai-kosodate-information.com/%e7%99%ba%e9%81%94%e9%9a%9c%e5%ae%b3%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9f%e5%ad%90%e3%81%a9%e3%82%82%e3%81%ae%e3%80%8c%e8%84%b3%e3%81%ae%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%97%e3%80%8d%e3%82%92%e7%90%86%e8%a7%a3%e3%81%99/ https://shounikai-kosodate-information.com/%e7%99%ba%e9%81%94%e9%9a%9c%e5%ae%b3%e3%81%a8%e3%81%af%ef%bc%9f%e5%ad%90%e3%81%a9%e3%82%82%e3%81%ae%e3%80%8c%e8%84%b3%e3%81%ae%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%97%e3%80%8d%e3%82%92%e7%90%86%e8%a7%a3%e3%81%99/#respond Tue, 23 Jun 2026 13:18:39 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=70

「落ち着きがない」「ことばがゆっくり」「集団行動が苦手」「こだわりが強い」。お子さんの様子を見ていて、「このままで大丈夫なのかな」と不安になることはありませんか?健診で相談したのに、「今は様子を見ましょう」と言われること ... ]]>

「落ち着きがない」「ことばがゆっくり」「集団行動が苦手」「こだわりが強い」。
お子さんの様子を見ていて、「このままで大丈夫なのかな」と不安になることはありませんか?
健診で相談したのに、「今は様子を見ましょう」と言われることがあります。子どもの発達には個人差があるため、成長を見守ることが大切な場合もあります。
しかし、理由や具体的な対応がわからないまま「様子を見る」だけでは、保護者の不安は強くなりやすいものです。 発達障害を考えるうえで大切なのは、「診断名がつくかどうか」ではありません。その子がどのような特徴をもち、どのような場面で困りやすく、どのような支援で安心できるのかを考えることです。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

発達障害は「欠陥」ではなく、脳のタイプの違いです

発達障害、より正確には神経発達症群とは、生まれつきの脳や神経の発達の仕方に特徴がある状態です。


たとえば、注意の向け方、感覚の受け取り方、ことばの理解、人との関わり方、予定変更への対応などに、その子なりの特徴が見られることがあります。
同じ診断名であっても、困っている場面や得意なこと、苦手なことは一人ひとり違います。つまり、「発達障害かどうか」だけではなく、
「この子は、どんな場面で困りやすいのか」
「どんな関わり方なら安心できるのか」
を丁寧に見ていくことが大切です。

特性があるだけでは、必ずしも「障害」ではありません

発達障害は、生まれつきの脳の特性に、家庭・園・学校などでの困りごとが重なったときに診断されます。


たとえば、こだわりが強い子でも、見通しのもてる環境では落ち着いて過ごせることがあります。音に敏感な子でも、静かな場所や休憩できる時間があれば、集団生活に参加しやすくなります。つまり、困りごとは「本人の特性」だけで決まるのではありません。その子の特性と環境との関係で生まれます。
家では落ち着いているのに園や学校では困りごとが目立つ子もいます。反対に、外では頑張っているけれど、家に帰ると疲れ切って不安定になる子もいます。これは、子どもがわざと困らせているわけではありません。環境から求められることが、その子の今の力を上回っているサインかもしれません。

発達はグラデーションで続いています

私たちはつい、子どもの発達を「普通」か「障害」かの二択で考えてしまいがちです。しかし、実際の発達は白黒はっきり分けられるものではありません。

注意がそれやすい子、音に敏感な子、予定変更が苦手な子、人との距離感が独特な子は、診断の有無にかかわらず存在します。発達の特徴は、グラデーションのように連続しています。

いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる子どもたちもいます。診断基準を満たすかどうかは微妙でも、本人や家族が困っているなら、支援を考えてよいのです。

「できている」ように見えても、無理をしていることがあります

発達特性のある子どもの中には、園や学校では一見問題なく過ごしているように見える子もいます。先生から「集団では困っていなさそうです」と言われる。でも家に帰ると泣いてしまう。友だちに合わせるために頑張りすぎて、帰宅後に不機嫌になる。行事のあとに強い疲れが出る。このように、周囲に合わせるために自分のつらさを隠し、過剰に頑張っている状態を「カモフラージュ」と呼ぶことがあります。

表面上は「普通に過ごせている」ように見えても、その下には大きな努力や不安、疲労が隠れていることがあります。

「できているから大丈夫」と考えるだけでは、子どもの本当のつらさを見逃してしまうことがあります。大切なのは、「無理をしていないか」「家で反動が出ていないか」「本人が安心して過ごせているか」を見ることです。

支援の基本は、子どもを変えることより環境を整えること

発達障害の支援というと、「子どもをどう変えるか」と考えてしまうことがあります。もちろん、子ども自身が少しずつ力を伸ばしていくことは大切です。しかし、それと同じくらい大切なのが、環境を整えることです。

予定を絵や表で見えるようにする。指示を短く分けて伝える。静かに休める場所を用意する。苦手な刺激を減らす。できた行動を具体的にほめる。

こうした工夫は、甘やかしではありません。眼鏡が必要な子に眼鏡を用意するように、発達特性のある子には、その子に合った伝え方や環境が必要です。

「なぜできないの?」と責めるのではなく、「どうしたらできる形に近づけられるかな?」と考えることが、支援の出発点になります。

診断はラベルではなく、支援につながる手がかりです

発達障害の診断に対して、「診断名がつくと、子どもが決めつけられてしまうのでは」と不安になる保護者の方もいます。

ただ、本来の診断の目的は、子どもにラベルを貼ることではありません。診断や特性への気づきは、その子を理解し、必要な支援につなげるための手がかりです。

こうしたことを整理することで、家庭・園・学校・医療が同じ方向を向いて支援しやすくなります。

まとめ

発達障害を考えるときには、「知る」「気づく」「整える」という3つの視点が大切です。

まず、その子の脳のタイプや発達の特徴を知ること。
次に、表面上はできているように見えても、無理をしていないかに気づくこと。
そして、子どもだけを変えようとするのではなく、家庭・園・学校などの環境を整えることです。

「こんなことで相談してよいのかな」と悩む保護者の方は少なくありません。でも、毎日そばで見ているからこそ気づけることがあります。

大切なのは、「困った子」と見るのではなく、「困っている子」として理解することです。 発達障害の支援は、子どもの未来を狭めるものではありません。その子が自分らしく、少しでも楽に過ごしていくための道を見つけるためのものです。

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「不器用」は性格のせいじゃない:発達性協調運動症(DCD:Developmental Coordination Disorder)を知って、子どもを守る https://shounikai-kosodate-information.com/%e3%80%8c%e4%b8%8d%e5%99%a8%e7%94%a8%e3%80%8d%e3%81%af%e6%80%a7%e6%a0%bc%e3%81%ae%e3%81%9b%e3%81%84%e3%81%98%e3%82%83%e3%81%aa%e3%81%84%ef%bc%9a%e7%99%ba%e9%81%94%e6%80%a7%e5%8d%94%e8%aa%bf%e9%81%8b/ https://shounikai-kosodate-information.com/%e3%80%8c%e4%b8%8d%e5%99%a8%e7%94%a8%e3%80%8d%e3%81%af%e6%80%a7%e6%a0%bc%e3%81%ae%e3%81%9b%e3%81%84%e3%81%98%e3%82%83%e3%81%aa%e3%81%84%ef%bc%9a%e7%99%ba%e9%81%94%e6%80%a7%e5%8d%94%e8%aa%bf%e9%81%8b/#respond Sat, 14 Mar 2026 05:02:22 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=51

はじめに:頑張っているのにうまくいかない子がいます

「ぶきっちょ」「運動音痴」――そんな言葉で傷ついている子どもと、どう関わればいいのか悩む保護者は少なくありません。
運動は筋力だけではなく、目で見た情報、触った感覚、身体の位置の感覚などをまとめて(統合して)、必要な筋肉を動かすタイミングや強さを調整しながら、すべてを“協調”させる「脳のはたらき」です。だから、苦手さがある子は、努力不足ではなく“脳の情報処理のクセ”として説明できることがあります。 この“協調”の力は、走る・跳ぶなどの粗大運動だけでなく、書字やハサミなどの微細運動、姿勢を保つ姿勢制御など、日常生活や学校生活のたくさんの場面で使われます。協調が苦手なまま「できるように頑張って」と言われ続けると、合理的な配慮が得られないだけでなく、苦手意識や劣等感が育ち、心の元気まで削られてしまうことがあります。DCDの早期発見と切れ目ない支援が求められる背景には、こうした“二次的なつらさ”を防ぎたいという考え方があります。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

1. 発達性協調運動症(DCD)ってなに?

DCDは、年齢や経験から期待される水準よりも、協調運動の獲得や遂行が明らかに苦手で、そのために日常生活や学業・遊びなどに困りごとが生じる状態です。DCDの背景には、運動を頭の中で組み立てて実行する過程(情報処理や運動学習)がうまく回りにくいという考え方があります。特に、「視覚と運動の連動」や「他者視点での認識」が苦手なため、他者の動作を観察して模倣することに時間がかかります。日常生活における困りごとは身体活動の低下、学習の遅れ、友人関係の悪化から、自尊心や自己肯定感の低下につながり、不登校や問題行動とも関連します。

国際的には、学齢期の子どもの5〜6%程度がDCDに該当するとされ、決して珍しくありません。男女を比較すると、男児の有病率は女児の数倍です。
また、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)など他の神経発達症と併存しやすいことも知られています。合併率はASDで80%にのぼり、ADHDやSLDで50%とされています。

2. 運動だけの問題ではない:学習や心の健康にもつながる

DCDは体育やスポーツだけでなく、学校生活で求められる多くの活動(板書、書字、計算、文具の操作、楽器、図工・家庭科など)に関係します。
保護者調査では、運動の不器用さで最も困る場所として「学校」が多く挙げられ、困りごとの内容として「学習(教科学習、学用品の使用、宿題など)」が目立つことが報告されています。さらに、不器用さは心理面の課題とも関連します。DCDのある子どもは自己知覚や自尊心が低く、不安が高いことが示されており、抑うつや不安などの内在化問題が生じやすい可能性が指摘されています。そして、就学前の不器用さ(特に微細運動の困難)が、就学後の学業成績の低さにつながり得ることも示されています。

3. どんなサインがある?(年齢ごとの“気づき”のヒント)

DCDは「発達段階早期からの困難」が診断要件に含まれますが、幼児期は個人差が大きく、5歳未満での確定診断は典型的ではないとされています。それでも、日常の中で「ん?」と感じるサインはあります。早めに気づき、環境調整や支援につなげることが、後々の心の傷つきを減らします。

乳児期〜幼児期に見られやすい例

  • 寝返り・おすわりが不安定、はいはいが遅い/左右差がある
  • 歩き始めが遅い、転びやすい、動きがぎこちない
  • スプーンやコップがうまく使えない、食べこぼしが多い
  • 塗り絵やお絵かきが極端に苦手、ハサミがうまく使えない

(※あくまで“気づきの例”で、これだけで診断はできません)

年長児(5〜6歳)で役立つ観察:CLASPの「運動5項目」

園・保育の場で「いつも」目立つ場合、支援が必要なサインになり得ます。CLASPでは、たとえば次のような観察項目が示されています。

  • 走り方がぎこちない/不自然
  • 遊具やブロックなど“身体を使う遊び”がスムーズにできない
  • 描きたい内容はあるのに手の動きがスムーズでなく時間がかかる
  • お絵かきや塗り絵が「ぐちゃぐちゃ」で伝わりにくい
  • 長く座ると疲れやすく、姿勢が崩れる/椅子からずり落ちる

4. 診断はどうやって決まる?(「疑い」を支援につなげる)

DCDの診断は、DSM-5-TRの診断基準に則り、病歴、身体診察、他者(家庭・園・学校)からの情報、必要に応じた検査を総合的に判断します。DSM-5-TRに記載されている診断基準は下記の通りです(筆者一部改変)。

  • 協調運動の獲得や遂行が年齢的に期待される水準より明らかに劣っている
  • 運動技能の欠如によって日常生活や学業、仕事などに影響がある
  • 症状の始まりは発達段階早期である
  • 知的能力障害や、その他の神経学的障害が原因ではない

診断基準に記載されているように、脳神経疾患がないことが前提となります。そのため、実臨床で問題になりやすい脳性麻痺などに気づくため、周産期の情報や画像検査はとても大切です。

※DSM-5-TR
DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders):アメリカ精神医学会が作成している精神疾患に関する国際的な診断基準。現在は第5版のテキスト改訂版。

5. 家庭と学校でできる支援:今日からできる「守り方」

ここが一番大切なところです。DCDの支援で目指すのは「できない動きを正常にする」ことよりも、子どもが日々の生活に“参加できる”ようにしていくことです。国際推奨では、活動・参加志向のアプローチが推奨され、子どもにとって意味のある目標設定、課題や状況の把握、主体性の尊重、機能性重視、保護者の関与などが重要とされます。子どもが主体的に<目標-計画-練習-評価>をできるように、どんなやり方で、どんな道具や環境を準備して、どんな課題をするかを一緒に可視化しましょう。乳幼児期であれば、身体を使った遊びを増やして、子どもが身体を使う感覚を楽しみながら育てましょう。

5-1. 「スモールステップ」と「エラーレス」で成功体験を積む

成功体験が積み上がるほど、挑戦する意欲が戻りやすくなります。

  • できるところまで課題を細かく分ける(スモールステップ)
  • 最初は十分に手助けして失敗体験を減らし、少しずつ手助けを減らす(エラーレス)
  • できたらすぐに、具体的にほめる(「最後まで続けたね」「ここが工夫できたね」)

5-2. 学習面の工夫:協調運動の負担を減らして「中身」に集中

学校の学習は、実は“手を使う運動”が多いものです。たとえば次のような配慮は、子どもの理解力を守りながら負担を減らします。

  • 事前に板書プリントをもらい、授業中の書く量を減らす
  • ノートのマス目を大きくする、行間を広くする
  • 作品や字の「丁寧さ」を評価の中心にしない(内容で評価する)
  • 太い鉛筆、三角鉛筆、滑り止め付き定規など道具を工夫する

5-3. 心の支援:いちばんの土台は「安心・安全」

不器用さが目立つほど、からかわれたり、恥ずかしい思いをしたりして、「やりたくない」「行きたくない」に変わっていくことがあります。DCDの子どもは自己知覚・自尊心の低さや不安の高さが報告されているため、環境ストレスを減らす視点が欠かせません。
家でも園・学校でも、「失敗しても笑われない」「挑戦しても大丈夫」「この子の味方がいる」という空気を先に整えることが、支援のスタートになります。

6. 受診・相談の目安:「診断の前」でも支援は始められる

  • 生活の中で困りごとが増えている(着替え・食事・書字・授業についていけない等)
  • 運動や図工などを強く避け、自己否定が増えてきた
  • 先生から「雑」「遅い」と言われて本人がつらそう

こうしたときは、かかりつけ医や発達相談、作業療法などにつながることが大切です。スクリーニング(CLASPなど)で気づき、早めに環境調整を始めることが、二次的な不登校やメンタル不調を防ぐ可能性があります。

おわりに:子どもの「できない」の奥にある努力を見つける

DCDの子どもは、見えにくいところでたくさん頑張っています。うまくいかないのは、怠けているからでも、親の育て方のせいでもありません。
「どうしたらできるかな?」を一緒に考え、成功体験を小さく積み重ね、安心できる居場所を守る。それだけで、子どもの表情が少しずつ変わっていきます。今日の記事が、その最初の一歩になればうれしいです。

参考文献

American Psychiatric Association. 高橋三郎, 大野裕 (監訳). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2023, pp 84-87.

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中井昭夫. チャイルドヘルス, 2023; 26: 326-332.

東恩納拓也. チャイルドヘルス, 2023; 26: 333-335.

片桐正敏. チャイルドヘルス, 2023; 26: 336-338.

斉藤まなぶ. チャイルドヘルス, 2023; 26: 339-342.

中井昭夫. チャイルドヘルス, 2023; 26: 343-347. 中井昭夫. DCD(発達性協調運動障害)が子どもの学習や心理発達に与える影響とこれからの支援. 実践みんなの特別支援教育, 2022; 50: 10-14.

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今の離乳食のやり方。それで大丈夫? https://shounikai-kosodate-information.com/%e4%bb%8a%e3%81%ae%e9%9b%a2%e4%b9%b3%e9%a3%9f%e3%81%ae%e3%82%84%e3%82%8a%e6%96%b9%e3%80%82%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%a7%e5%a4%a7%e4%b8%88%e5%a4%ab%ef%bc%9f/ https://shounikai-kosodate-information.com/%e4%bb%8a%e3%81%ae%e9%9b%a2%e4%b9%b3%e9%a3%9f%e3%81%ae%e3%82%84%e3%82%8a%e6%96%b9%e3%80%82%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%a7%e5%a4%a7%e4%b8%88%e5%a4%ab%ef%bc%9f/#respond Thu, 01 Jan 2026 11:41:06 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=45

産後まもなくから保健師さんの訪問や、3–4か月健診での保健指導があり、日本は「早い段階から親子を支える仕組み」が整っています。一方で、自治体によって離乳食の説明が少しずつ違い、6–7か月健診や9–10か月健診で小児科医が説明すると「保健師さんと違うけど、どっちが正しいの?」と混乱が起きることも珍しくありません。
毎日お世話をしながら情報を集めて、迷いながらも赤ちゃんのために頑張っているお母さん・お父さん、本当にお疲れさまです。特に「体重が増えない」「食べてくれない」は心配が尽きませんよね。ここでは、いまの栄養指導を“日本+海外の推奨”を踏まえて整理し、現実に続けやすい形に落とし込みます。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

1. まず押さえる:離乳食は「練習」と「栄養」の両輪

離乳食は咀嚼(かむ)と嚥下(飲み込む)の練習であると同時に、栄養を満たして成長を支えるものです。3歳までの成長は栄養に依存しており、幼少期の栄養はその後の発達に関わります(鉄不足が認知機能に影響することも)。さらに、5歳までの成長に人種差はないとされ、海外の指針も参考になります。

2. 開始時期:目安は5〜6か月、「準備ができたサイン」を確認

諸外国を含め、離乳食開始は概ね5〜6か月で遅らせない。目安は

  • 首がすわっている
  • 口から押し出す反射が弱くなっている
  • 食事に興味がある
    このサインがそろった生後5か月以降に開始するのがよい考え方です。

3. “重湯・10倍粥スタート”にこだわりすぎない

日本では「10倍粥(あるいは重湯)から」という指導が多いですが、栄養学的観点で注意があります。母乳や乳児用ミルクは約65kcal/100mL、全粥(5倍粥)は約70kcal/100mLで同等。一方、10倍粥は約30kcal/100mLでエネルギーが少なめです。
窒息予防のため「小さく・柔らかく・必要ならピューレ」は大事。でも、重湯から“長く”続ける必要はありません。ミルクですでに水分の嚥下は練習済みなので、離乳食初期から「食べやすくした全粥程度まで早めに進めて栄養を取る」という考えが理にかないます。

4. 新しい食材:一つずつでOK、ただし“1週間あける”は要注意

「新しい食材は一つずつ」「数日は続けて様子を見る」は賛成です。けれど「新しい食材は1週間以上あける」を忠実に守ると、たんぱく質開始が遅れて必要な栄養が不足しやすくなります。
ポイントは、「一つずつ試しつつ、慣れの期間は並行して進める」こと。例えば、Aを試した翌日からAは続けつつ、Bを少量で追加、のように進められます。

5. 食事回数:1日1回に固定する医学的根拠は乏しい

「1日1回を7〜8か月まで維持」という指導もありますが、離乳食は経験で上達します。味に慣れるには複数回の“触れる機会”が必要なことも分かっています。日本だけでなく海外でも色々な味・食感・食品に慣れさせることが重要視されているため、赤ちゃんが嫌がる日は無理せず、離乳食初期から家族のリズムに合わせて早めに1日2〜3回の経験を積むほうがスムーズなことが多いです。

6. アレルギー:怖いから遅らせる、は今の医学と逆

重要な転換点です。卵・乳製品などのアレルゲンは「遅らせる」より、離乳食開始後の早期に少量から摂取し、免疫寛容(体に慣れさせる)を促すのが現在の考え方です。もちろん大量に食べる必要はなく、少しずつ段階的に増やせば十分です(心配が強い場合は主治医と相談を)。

7. フォローアップミルク:切り替えが“正解”ではな

フォローアップミルクは鉄強化が特徴ですが、母乳栄養で離乳が進まず鉄欠乏を疑うなら、鉄剤(例:インクレミンシロップ®など医師管理下)が適しています。また、それ以外の栄養成分は乳児用ミルクに軍配が上がります。さらに各国指針では「フォローアップミルクは母乳の代用品ではない」とされ、切り替えで栄養不足が起こり得る点にも注意が促されています。つまり、乳児用ミルクを飲めている子を、積極的にフォローアップミルクへ変更する必要はありません。参考までに400mLあたりですが大まかな栄養成分の比較を示します。

8. 母乳はいつまで?やめ時に“正解”はない

「いつまで母乳を続けていいの?」はとても多い質問です。多くの指針は“やめる時期”を決めず、むしろ2歳以降も可能なら続けてよい、という立場です。母乳には赤ちゃん・お母さん双方にメリットがあります。
ただし、家庭の事情で早めにやめる選択も尊重されるべきです。医学的にAが望ましくても、暮らしの中で続けられなければ意味がありません。「医学的にはA、でもご家庭にはBでよい」—この視点こそ、毎日を回している親御さんに必要な“現実的な正解”です。

最後に

離乳食は、赤ちゃんの成長だけでなく、親の生活も大きく揺さぶります。体重が増えない不安、食べない焦り、情報がバラバラで疲れてしまう気持ち…どれも自然なことです。今日できた一口、座って食べられた数分、それだけでも立派な前進。どうかご自身を責めず、困ったら小児科や地域の専門職に頼ってくださいね。

  1. 「授乳・離乳の支援ガイド」改訂に関する研究会. “授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂)”厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257/pdf
  2. World Health Organization. WHO guideline for complementary feeding of infants and young children 6-23 months of age. 1st edition. Geneva: World Health Organization, 2023.
  3. Muth DN, et al. The clinician’s guide to pediatric nutrition. 1st edition. Washington DC: American Academy of Pediatrics, 2023.
  4. Fewtrell M, et al. Complementary Feeding: A Position Paper by the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition (ESPGHAN) Committee on Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2017; 64: 119-132.
  5. 早田茉莉, 他. 日本における離乳食・補完食指導の現状. 日本小児科学会雑誌, 2025; 129: 1266-1275.
  6. WHO Multicentre Growth Reference Study Group. WHO Child Growth Standards based on length/height, weight and age. Acta Paediatr Suppl, 2006; 450: 76-85
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ASDを疑ったらM-CHAT-RやPARS-TRを評価する https://shounikai-kosodate-information.com/asd%e3%82%92%e7%96%91%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%82%89m-chat-r%e3%82%84pars-tr%e3%82%92%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%99%e3%82%8b/ https://shounikai-kosodate-information.com/asd%e3%82%92%e7%96%91%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%82%89m-chat-r%e3%82%84pars-tr%e3%82%92%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%99%e3%82%8b/#respond Mon, 11 Aug 2025 13:24:25 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=33

子どもが発達障害による行動特性をもっている場合に育児困難を感じやすい。親が子どもの発達に疑問をもって受診しようと思っても、数か月待ちがざらである。その間、親はSNSなどに溢れている(しばしば誤った)情報に曝され、自己嫌悪に陥ることでさらに育児困難を強くする。発達障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)は早期介入が予後を改善するため、早期に認知して適切な支援を行うことが重要である。M-CHAT-Rは1歳6か月から2歳程度を対象にASDのスクリーニングを行う検査であり、PARS-TRは幼児期から思春期まで幅広い年代で使用できる診断補助検査である。M-CHAT-RやPARS-TRを上手く活用するにはどうしたらよいか解説していく。

執筆者

小児科専門医・医学博士

大学病院で、小児神経とこどもの心を専門に診療しています。

<M-CHAT-Rはどのような検査か?>

M-CHAT-RはDiana L. Robins、Deborah Fein、Marianne Bartonによって作成されたASDのスクリーニング検査である。原版は16か月から30か月の乳幼児を対象としているが、日本では1歳6か月(18か月)で健診があり、1歳6か月から2歳程度を対象に行うことが多い。ASDのスクリーニング以外に社会性の発達状況を把握するためにも用いられるため、2歳以上の幼児で実施する場合もある。

本検査は20の質問に養育者が答える質問形式で、不通過項目が3つ以上を陽性とする。定型発達の1歳6か月であればすべての項目を通過しているはずなので、陽性であれば社会性の発達になんらかの問題がある。改訂前のM-CHATによる診断率(陽性的中率)は17.8%との報告があり、スクリーニング陽性=ASDではなく、それ以外の基礎疾患が隠れている場合もある。また、M-CHAT陰性と判定され、のちにASDと診断された子は1.0%であり、不通過項目が2つ以下の場合は可能性が低いと言える。 ASDに関する詳細は別稿を参照していただきたいが、本検査の質問内容はASDを疑う徴候に関連している。

<M-CHAT-Rの解釈>

前述したように不通過項目が3つ以上を陽性とするが、本検査にはフォローアップ調査があり、陽性判定の1~2か月後に実施して追加情報を得る。不通過項目が2つ以下であっても、2歳未満であれば2歳以降に再度スクリーニングを行うが、ASDの可能性を示さなければ追加の処置は不要とされている。不通過項目が8つ以上など非常に多い場合は、早期介入を行うべく診断的評価を急ぐ。

<PARS-TRはどのような検査か?>

PARS-TRは養育者(基本的に親)に対して半構造化面接を行い、子育てが最も大変だった幼児期ピークと現在の二つの時間軸で評価する。幼児期ピークを振り返って評価することにより、ASD症状を丁寧に把握することができる。検査には多くの項目があるが、各項目に当てはまる症状の程度と頻度から3段階で評価する。養育者が覚えていない場合や評価する条件を満たさない項目は「評価不能」として扱う。

  •  0:まったく認められない
  •  1:ときどきみられる、あるいは多少ある
  •  2:たいていみられる、あるいはかなりある
  •  8:情報が得られなかった場合(評価不能)
  •  9:対象児が該当項目を評価する条件を満たさない場合(評価不能)

幼児期の項目と、現在の年齢帯の項目をそれぞれ評価して合計点からASDの可能性を判断する。この検査はあくまで養育者に対する面接法で点数化した補助検査であり、検査陽性=ASDの診断」ではない。しかし、本検査の質問内容はASDを疑う徴候に関連しているため大いに参考になる。

<PARS-TRでわかること>

本検査によって、得点からASDの可能性がわかるだけでなく、

  1. 行動症状の程度と頻度
  2. 症状に影響を与える場面条件

を把握することが可能であり、子どもへの支援を考える上で役に立つ。

PARS-TRの信頼性・妥当性については、表の通りである。感度は「本物をどれだけ拾い上げられるか」を表しており、特異度は「検査陰性ならどの程度ASDじゃないと言えるか」を表している。

 感度特異度
幼児期 9点をカットオフ89%94%
学童期 13点をカットオフ97%91%
思春期 20点をカットオフ81%86%

<参考文献>

神尾陽子. 小児内科, 2018; 50: 1399-1402.

大六一志. 発達障害研究, 2021; 43: 26-32.

Carbone, P.S, et al. Primary Care Autism Screening and Later Autism Diagnosis. Pediatrics, 2020; 146.

安達潤. 小児内科, 2018; 50: 1406-1409.

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