小児科専門医の子育て情報室 https://shounikai-kosodate-information.com 子育ては一人じゃない!一緒に子育てを楽しもう! Sat, 14 Mar 2026 05:02:25 +0000 ja hourly 1 「不器用」は性格のせいじゃない:発達性協調運動症(DCD:Developmental Coordination Disorder)を知って、子どもを守る https://shounikai-kosodate-information.com/%e3%80%8c%e4%b8%8d%e5%99%a8%e7%94%a8%e3%80%8d%e3%81%af%e6%80%a7%e6%a0%bc%e3%81%ae%e3%81%9b%e3%81%84%e3%81%98%e3%82%83%e3%81%aa%e3%81%84%ef%bc%9a%e7%99%ba%e9%81%94%e6%80%a7%e5%8d%94%e8%aa%bf%e9%81%8b/ https://shounikai-kosodate-information.com/%e3%80%8c%e4%b8%8d%e5%99%a8%e7%94%a8%e3%80%8d%e3%81%af%e6%80%a7%e6%a0%bc%e3%81%ae%e3%81%9b%e3%81%84%e3%81%98%e3%82%83%e3%81%aa%e3%81%84%ef%bc%9a%e7%99%ba%e9%81%94%e6%80%a7%e5%8d%94%e8%aa%bf%e9%81%8b/#respond Sat, 14 Mar 2026 05:02:22 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=51

はじめに:頑張っているのにうまくいかない子がいます

「ぶきっちょ」「運動音痴」――そんな言葉で傷ついている子どもと、どう関わればいいのか悩む保護者は少なくありません。
運動は筋力だけではなく、目で見た情報、触った感覚、身体の位置の感覚などをまとめて(統合して)、必要な筋肉を動かすタイミングや強さを調整しながら、すべてを“協調”させる「脳のはたらき」です。だから、苦手さがある子は、努力不足ではなく“脳の情報処理のクセ”として説明できることがあります。 この“協調”の力は、走る・跳ぶなどの粗大運動だけでなく、書字やハサミなどの微細運動、姿勢を保つ姿勢制御など、日常生活や学校生活のたくさんの場面で使われます。協調が苦手なまま「できるように頑張って」と言われ続けると、合理的な配慮が得られないだけでなく、苦手意識や劣等感が育ち、心の元気まで削られてしまうことがあります。DCDの早期発見と切れ目ない支援が求められる背景には、こうした“二次的なつらさ”を防ぎたいという考え方があります。

1. 発達性協調運動症(DCD)ってなに?

DCDは、年齢や経験から期待される水準よりも、協調運動の獲得や遂行が明らかに苦手で、そのために日常生活や学業・遊びなどに困りごとが生じる状態です。DCDの背景には、運動を頭の中で組み立てて実行する過程(情報処理や運動学習)がうまく回りにくいという考え方があります。特に、「視覚と運動の連動」や「他者視点での認識」が苦手なため、他者の動作を観察して模倣することに時間がかかります。日常生活における困りごとは身体活動の低下、学習の遅れ、友人関係の悪化から、自尊心や自己肯定感の低下につながり、不登校や問題行動とも関連します。

国際的には、学齢期の子どもの5〜6%程度がDCDに該当するとされ、決して珍しくありません。男女を比較すると、男児の有病率は女児の数倍です。
また、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)、SLD(限局性学習症)など他の神経発達症と併存しやすいことも知られています。合併率はASDで80%にのぼり、ADHDやSLDで50%とされています。

2. 運動だけの問題ではない:学習や心の健康にもつながる

DCDは体育やスポーツだけでなく、学校生活で求められる多くの活動(板書、書字、計算、文具の操作、楽器、図工・家庭科など)に関係します。
保護者調査では、運動の不器用さで最も困る場所として「学校」が多く挙げられ、困りごとの内容として「学習(教科学習、学用品の使用、宿題など)」が目立つことが報告されています。さらに、不器用さは心理面の課題とも関連します。DCDのある子どもは自己知覚や自尊心が低く、不安が高いことが示されており、抑うつや不安などの内在化問題が生じやすい可能性が指摘されています。そして、就学前の不器用さ(特に微細運動の困難)が、就学後の学業成績の低さにつながり得ることも示されています。

3. どんなサインがある?(年齢ごとの“気づき”のヒント)

DCDは「発達段階早期からの困難」が診断要件に含まれますが、幼児期は個人差が大きく、5歳未満での確定診断は典型的ではないとされています。それでも、日常の中で「ん?」と感じるサインはあります。早めに気づき、環境調整や支援につなげることが、後々の心の傷つきを減らします。

乳児期〜幼児期に見られやすい例

  • 寝返り・おすわりが不安定、はいはいが遅い/左右差がある
  • 歩き始めが遅い、転びやすい、動きがぎこちない
  • スプーンやコップがうまく使えない、食べこぼしが多い
  • 塗り絵やお絵かきが極端に苦手、ハサミがうまく使えない

(※あくまで“気づきの例”で、これだけで診断はできません)

年長児(5〜6歳)で役立つ観察:CLASPの「運動5項目」

園・保育の場で「いつも」目立つ場合、支援が必要なサインになり得ます。CLASPでは、たとえば次のような観察項目が示されています。

  • 走り方がぎこちない/不自然
  • 遊具やブロックなど“身体を使う遊び”がスムーズにできない
  • 描きたい内容はあるのに手の動きがスムーズでなく時間がかかる
  • お絵かきや塗り絵が「ぐちゃぐちゃ」で伝わりにくい
  • 長く座ると疲れやすく、姿勢が崩れる/椅子からずり落ちる

4. 診断はどうやって決まる?(「疑い」を支援につなげる)

DCDの診断は、DSM-5-TRの診断基準に則り、病歴、身体診察、他者(家庭・園・学校)からの情報、必要に応じた検査を総合的に判断します。DSM-5-TRに記載されている診断基準は下記の通りです(筆者一部改変)。

  • 協調運動の獲得や遂行が年齢的に期待される水準より明らかに劣っている
  • 運動技能の欠如によって日常生活や学業、仕事などに影響がある
  • 症状の始まりは発達段階早期である
  • 知的能力障害や、その他の神経学的障害が原因ではない

診断基準に記載されているように、脳神経疾患がないことが前提となります。そのため、実臨床で問題になりやすい脳性麻痺などに気づくため、周産期の情報や画像検査はとても大切です。

※DSM-5-TR
DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders):アメリカ精神医学会が作成している精神疾患に関する国際的な診断基準。現在は第5版のテキスト改訂版。

5. 家庭と学校でできる支援:今日からできる「守り方」

ここが一番大切なところです。DCDの支援で目指すのは「できない動きを正常にする」ことよりも、子どもが日々の生活に“参加できる”ようにしていくことです。国際推奨では、活動・参加志向のアプローチが推奨され、子どもにとって意味のある目標設定、課題や状況の把握、主体性の尊重、機能性重視、保護者の関与などが重要とされます。子どもが主体的に<目標-計画-練習-評価>をできるように、どんなやり方で、どんな道具や環境を準備して、どんな課題をするかを一緒に可視化しましょう。乳幼児期であれば、身体を使った遊びを増やして、子どもが身体を使う感覚を楽しみながら育てましょう。

5-1. 「スモールステップ」と「エラーレス」で成功体験を積む

成功体験が積み上がるほど、挑戦する意欲が戻りやすくなります。

  • できるところまで課題を細かく分ける(スモールステップ)
  • 最初は十分に手助けして失敗体験を減らし、少しずつ手助けを減らす(エラーレス)
  • できたらすぐに、具体的にほめる(「最後まで続けたね」「ここが工夫できたね」)

5-2. 学習面の工夫:協調運動の負担を減らして「中身」に集中

学校の学習は、実は“手を使う運動”が多いものです。たとえば次のような配慮は、子どもの理解力を守りながら負担を減らします。

  • 事前に板書プリントをもらい、授業中の書く量を減らす
  • ノートのマス目を大きくする、行間を広くする
  • 作品や字の「丁寧さ」を評価の中心にしない(内容で評価する)
  • 太い鉛筆、三角鉛筆、滑り止め付き定規など道具を工夫する

5-3. 心の支援:いちばんの土台は「安心・安全」

不器用さが目立つほど、からかわれたり、恥ずかしい思いをしたりして、「やりたくない」「行きたくない」に変わっていくことがあります。DCDの子どもは自己知覚・自尊心の低さや不安の高さが報告されているため、環境ストレスを減らす視点が欠かせません。
家でも園・学校でも、「失敗しても笑われない」「挑戦しても大丈夫」「この子の味方がいる」という空気を先に整えることが、支援のスタートになります。

6. 受診・相談の目安:「診断の前」でも支援は始められる

  • 生活の中で困りごとが増えている(着替え・食事・書字・授業についていけない等)
  • 運動や図工などを強く避け、自己否定が増えてきた
  • 先生から「雑」「遅い」と言われて本人がつらそう

こうしたときは、かかりつけ医や発達相談、作業療法などにつながることが大切です。スクリーニング(CLASPなど)で気づき、早めに環境調整を始めることが、二次的な不登校やメンタル不調を防ぐ可能性があります。

おわりに:子どもの「できない」の奥にある努力を見つける

DCDの子どもは、見えにくいところでたくさん頑張っています。うまくいかないのは、怠けているからでも、親の育て方のせいでもありません。
「どうしたらできるかな?」を一緒に考え、成功体験を小さく積み重ね、安心できる居場所を守る。それだけで、子どもの表情が少しずつ変わっていきます。今日の記事が、その最初の一歩になればうれしいです。

参考文献

American Psychiatric Association. 高橋三郎, 大野裕 (監訳). DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院, 2023, pp 84-87.

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中井昭夫. チャイルドヘルス, 2023; 26: 326-332.

東恩納拓也. チャイルドヘルス, 2023; 26: 333-335.

片桐正敏. チャイルドヘルス, 2023; 26: 336-338.

斉藤まなぶ. チャイルドヘルス, 2023; 26: 339-342.

中井昭夫. チャイルドヘルス, 2023; 26: 343-347. 中井昭夫. DCD(発達性協調運動障害)が子どもの学習や心理発達に与える影響とこれからの支援. 実践みんなの特別支援教育, 2022; 50: 10-14.

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今の離乳食のやり方。それで大丈夫? https://shounikai-kosodate-information.com/%e4%bb%8a%e3%81%ae%e9%9b%a2%e4%b9%b3%e9%a3%9f%e3%81%ae%e3%82%84%e3%82%8a%e6%96%b9%e3%80%82%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%a7%e5%a4%a7%e4%b8%88%e5%a4%ab%ef%bc%9f/ https://shounikai-kosodate-information.com/%e4%bb%8a%e3%81%ae%e9%9b%a2%e4%b9%b3%e9%a3%9f%e3%81%ae%e3%82%84%e3%82%8a%e6%96%b9%e3%80%82%e3%81%9d%e3%82%8c%e3%81%a7%e5%a4%a7%e4%b8%88%e5%a4%ab%ef%bc%9f/#respond Thu, 01 Jan 2026 11:41:06 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=45

産後まもなくから保健師さんの訪問や、3–4か月健診での保健指導があり、日本は「早い段階から親子を支える仕組み」が整っています。一方で、自治体によって離乳食の説明が少しずつ違い、6–7か月健診や9–10か月健診で小児科医が説明すると「保健師さんと違うけど、どっちが正しいの?」と混乱が起きることも珍しくありません。
毎日お世話をしながら情報を集めて、迷いながらも赤ちゃんのために頑張っているお母さん・お父さん、本当にお疲れさまです。特に「体重が増えない」「食べてくれない」は心配が尽きませんよね。ここでは、いまの栄養指導を“日本+海外の推奨”を踏まえて整理し、現実に続けやすい形に落とし込みます。

1. まず押さえる:離乳食は「練習」と「栄養」の両輪

離乳食は咀嚼(かむ)と嚥下(飲み込む)の練習であると同時に、栄養を満たして成長を支えるものです。3歳までの成長は栄養に依存しており、幼少期の栄養はその後の発達に関わります(鉄不足が認知機能に影響することも)。さらに、5歳までの成長に人種差はないとされ、海外の指針も参考になります。

2. 開始時期:目安は5〜6か月、「準備ができたサイン」を確認

諸外国を含め、離乳食開始は概ね5〜6か月で遅らせない。目安は

  • 首がすわっている
  • 口から押し出す反射が弱くなっている
  • 食事に興味がある
    このサインがそろった生後5か月以降に開始するのがよい考え方です。

3. “重湯・10倍粥スタート”にこだわりすぎない

日本では「10倍粥(あるいは重湯)から」という指導が多いですが、栄養学的観点で注意があります。母乳や乳児用ミルクは約65kcal/100mL、全粥(5倍粥)は約70kcal/100mLで同等。一方、10倍粥は約30kcal/100mLでエネルギーが少なめです。
窒息予防のため「小さく・柔らかく・必要ならピューレ」は大事。でも、重湯から“長く”続ける必要はありません。ミルクですでに水分の嚥下は練習済みなので、離乳食初期から「食べやすくした全粥程度まで早めに進めて栄養を取る」という考えが理にかないます。

4. 新しい食材:一つずつでOK、ただし“1週間あける”は要注意

「新しい食材は一つずつ」「数日は続けて様子を見る」は賛成です。けれど「新しい食材は1週間以上あける」を忠実に守ると、たんぱく質開始が遅れて必要な栄養が不足しやすくなります。
ポイントは、「一つずつ試しつつ、慣れの期間は並行して進める」こと。例えば、Aを試した翌日からAは続けつつ、Bを少量で追加、のように進められます。

5. 食事回数:1日1回に固定する医学的根拠は乏しい

「1日1回を7〜8か月まで維持」という指導もありますが、離乳食は経験で上達します。味に慣れるには複数回の“触れる機会”が必要なことも分かっています。日本だけでなく海外でも色々な味・食感・食品に慣れさせることが重要視されているため、赤ちゃんが嫌がる日は無理せず、離乳食初期から家族のリズムに合わせて早めに1日2〜3回の経験を積むほうがスムーズなことが多いです。

6. アレルギー:怖いから遅らせる、は今の医学と逆

重要な転換点です。卵・ピーナッツなどのアレルゲンは「遅らせる」より、離乳食開始後の早期に少量から摂取し、免疫寛容(体に慣れさせる)を促すのが現在の考え方です。もちろん大量に食べる必要はなく、少しずつ段階的に増やせば十分です(心配が強い場合は主治医と相談を)。

7. フォローアップミルク:切り替えが“正解”ではな

フォローアップミルクは鉄強化が特徴ですが、母乳栄養で離乳が進まず鉄欠乏を疑うなら、鉄剤(例:インクレミンシロップ®など医師管理下)が適しています。また、それ以外の栄養成分は乳児用ミルクに軍配が上がります。さらに各国指針では「フォローアップミルクは母乳の代用品ではない」とされ、切り替えで栄養不足が起こり得る点にも注意が促されています。つまり、乳児用ミルクを飲めている子を、積極的にフォローアップミルクへ変更する必要はありません。参考までに400mLあたりですが大まかな栄養成分の比較を示します。

8. 母乳はいつまで?やめ時に“正解”はない

「いつまで母乳を続けていいの?」はとても多い質問です。多くの指針は“やめる時期”を決めず、むしろ2歳以降も可能なら続けてよい、という立場です。母乳には赤ちゃん・お母さん双方にメリットがあります。
ただし、家庭の事情で早めにやめる選択も尊重されるべきです。医学的にAが望ましくても、暮らしの中で続けられなければ意味がありません。「医学的にはA、でもご家庭にはBでよい」—この視点こそ、毎日を回している親御さんに必要な“現実的な正解”です。

最後に

離乳食は、赤ちゃんの成長だけでなく、親の生活も大きく揺さぶります。体重が増えない不安、食べない焦り、情報がバラバラで疲れてしまう気持ち…どれも自然なことです。今日できた一口、座って食べられた数分、それだけでも立派な前進。どうかご自身を責めず、困ったら小児科や地域の専門職に頼ってくださいね。

  1. 「授乳・離乳の支援ガイド」改訂に関する研究会. “授乳・離乳の支援ガイド(2019年改訂)”厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257/pdf
  2. World Health Organization. WHO guideline for complementary feeding of infants and young children 6-23 months of age. 1st edition. Geneva: World Health Organization, 2023.
  3. Muth DN, et al. The clinician’s guide to pediatric nutrition. 1st edition. Washington DC: American Academy of Pediatrics, 2023.
  4. Fewtrell M, et al. Complementary Feeding: A Position Paper by the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition (ESPGHAN) Committee on Nutrition. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2017; 64: 119-132.
  5. 早田茉莉, 他. 日本における離乳食・補完食指導の現状. 日本小児科学会雑誌, 2025; 129: 1266-1275.
  6. WHO Multicentre Growth Reference Study Group. WHO Child Growth Standards based on length/height, weight and age. Acta Paediatr Suppl, 2006; 450: 76-85
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ASDを疑ったらM-CHAT-RやPARS-TRを評価する https://shounikai-kosodate-information.com/asd%e3%82%92%e7%96%91%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%82%89m-chat-r%e3%82%84pars-tr%e3%82%92%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%99%e3%82%8b/ https://shounikai-kosodate-information.com/asd%e3%82%92%e7%96%91%e3%81%a3%e3%81%9f%e3%82%89m-chat-r%e3%82%84pars-tr%e3%82%92%e8%a9%95%e4%be%a1%e3%81%99%e3%82%8b/#respond Mon, 11 Aug 2025 13:24:25 +0000 https://shounikai-kosodate-information.com/?p=33

子どもが発達障害による行動特性をもっている場合に育児困難を感じやすい。親が子どもの発達に疑問をもって受診しようと思っても、数か月待ちがざらである。その間、親はSNSなどに溢れている(しばしば誤った)情報に曝され、自己嫌悪に陥ることでさらに育児困難を強くする。発達障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)は早期介入が予後を改善するため、早期に認知して適切な支援を行うことが重要である。M-CHAT-Rは1歳6か月から2歳程度を対象にASDのスクリーニングを行う検査であり、PARS-TRは幼児期から思春期まで幅広い年代で使用できる診断補助検査である。M-CHAT-RやPARS-TRを上手く活用するにはどうしたらよいか解説していく。

<M-CHAT-Rはどのような検査か?>

M-CHAT-RはDiana L. Robins、Deborah Fein、Marianne Bartonによって作成されたASDのスクリーニング検査である。原版は16か月から30か月の乳幼児を対象としているが、日本では1歳6か月(18か月)で健診があり、1歳6か月から2歳程度を対象に行うことが多い。ASDのスクリーニング以外に社会性の発達状況を把握するためにも用いられるため、2歳以上の幼児で実施する場合もある。

本検査は20の質問に養育者が答える質問形式で、不通過項目が3つ以上を陽性とする。定型発達の1歳6か月であればすべての項目を通過しているはずなので、陽性であれば社会性の発達になんらかの問題がある。改訂前のM-CHATによる診断率(陽性的中率)は17.8%との報告があり、スクリーニング陽性=ASDではなく、それ以外の基礎疾患が隠れている場合もある。また、M-CHAT陰性と判定され、のちにASDと診断された子は1.0%であり、不通過項目が2つ以下の場合は可能性が低いと言える。 ASDに関する詳細は別稿を参照していただきたいが、本検査の質問内容はASDを疑う徴候に関連している。

<M-CHAT-Rの解釈>

前述したように不通過項目が3つ以上を陽性とするが、本検査にはフォローアップ調査があり、陽性判定の1~2か月後に実施して追加情報を得る。不通過項目が2つ以下であっても、2歳未満であれば2歳以降に再度スクリーニングを行うが、ASDの可能性を示さなければ追加の処置は不要とされている。不通過項目が8つ以上など非常に多い場合は、早期介入を行うべく診断的評価を急ぐ。

<PARS-TRはどのような検査か?>

PARS-TRは養育者(基本的に親)に対して半構造化面接を行い、子育てが最も大変だった幼児期ピークと現在の二つの時間軸で評価する。幼児期ピークを振り返って評価することにより、ASD症状を丁寧に把握することができる。検査には多くの項目があるが、各項目に当てはまる症状の程度と頻度から3段階で評価する。養育者が覚えていない場合や評価する条件を満たさない項目は「評価不能」として扱う。

  •  0:まったく認められない
  •  1:ときどきみられる、あるいは多少ある
  •  2:たいていみられる、あるいはかなりある
  •  8:情報が得られなかった場合(評価不能)
  •  9:対象児が該当項目を評価する条件を満たさない場合(評価不能)

幼児期の項目と、現在の年齢帯の項目をそれぞれ評価して合計点からASDの可能性を判断する。この検査はあくまで養育者に対する面接法で点数化した補助検査であり、検査陽性=ASDの診断」ではない。しかし、本検査の質問内容はASDを疑う徴候に関連しているため大いに参考になる。

<PARS-TRでわかること>

本検査によって、得点からASDの可能性がわかるだけでなく、

  1. 行動症状の程度と頻度
  2. 症状に影響を与える場面条件

を把握することが可能であり、子どもへの支援を考える上で役に立つ。

PARS-TRの信頼性・妥当性については、表の通りである。感度は「本物をどれだけ拾い上げられるか」を表しており、特異度は「検査陰性ならどの程度ASDじゃないと言えるか」を表している。

 感度特異度
幼児期 9点をカットオフ89%94%
学童期 13点をカットオフ97%91%
思春期 20点をカットオフ81%86%

<参考文献>

神尾陽子. 小児内科, 2018; 50: 1399-1402.

大六一志. 発達障害研究, 2021; 43: 26-32.

Carbone, P.S, et al. Primary Care Autism Screening and Later Autism Diagnosis. Pediatrics, 2020; 146.

安達潤. 小児内科, 2018; 50: 1406-1409.

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